ティク・ナット・ハンの有名な言葉「1枚の紙の中に雲を見る」、ご存じですか?
「1枚の紙がここにあるということは、その材料となる木があったということ。木があったということは、雨が降ったということ。雨が降ったということは、雲があったということ」
・・・世界が全然ちがって見えてきて、事あるごとに思い出したいなと思う偉大な視点です。しかも、イメージするの結構簡単(深いけど)。
そして、社会問題や環境問題やエシカルといった部分には、本当に「この視点を持つ」ことが大切なんだろうなと。見えている部分だけで片づけないこと。見えていない部分を知ること。
数年ぶりに読み返した本『これ、食べていいの?ーーハンバーガーから森のなかまで』(マイケル・ポーラン)は、まさにそんな視点を突きつけてくれる超絶わかりやすい1冊。↓冒頭からすごいです。その心=「スーパーマーケットの中にトウモロコシを見る」!!!
「スーパーマーケットはふつう、「トウモロコシ畑」には見えません。でも、[…]じつは「大量のトウモロコシ」が…。」 「店の奥へ行くと、精肉コーナーがあります。ここにも「大量のトウモロコシ」がかくれている。いったいどこに? ヒントは…。肉になる前の牛や豚や鶏がなにを食べていたかというと、そう、主にトウモロコシ。長い棚にずらりと並んだ清涼飲料水は、どうでしょう。トウモロコシ製。」(←ブドウ糖果糖液糖) 「いかにしてトウモロコシは、アメリカという国を「乗っとった」のでしょうか。[…]トウモロコシの作付け面積は、いまやアメリカ一。[…]これだけの面積を占拠している生物は――人間もふくめて――ほかにはいません。アメリカじゅうの農場からほかの動植物を追いだすことに、トウモロコシは成功したのです。生産者である人間まで追いだしてしまっている[…]。」
・・・というわけで、この「かくれトウモロコシ」の話を皮切りに、ここ数十年で社会の食料供給システムがいかに不自然に変容してきたかが劇的に解き明かされていきます。視点がとても客観的かつ俯瞰的で、オーガニックも、遺伝子組み換えも、畜産も、単に「オーガニックはいい!」とか「健康や環境への影響が…」とかいう表層的な議論ではなく、より根本的な構造部分から論じてくれるので、すごく有益。理解が深まります。
この視点でいけば、日本の食料自給率は30%台という低さなわけですが、「国産の肉」も飼料の9割近くが輸入の穀物なわけで、その意味では「あれは牛や豚のフレームだけ借りた輸入食材みたいなものなのかも」とか。。。
本書、おすすめな理由がもうひとつあって、大ベストセラー『雑食動物のジレンマ』をティーンエージャーの若者向けに読みやすく編集した簡略版なのです。なので、ものすごく読みやすい(翻訳もとてもいいです)。僕は本を読むのがあまり得意ではないので、難しい本は疲れて投げだしたりするのですが、この本は疲れません。何しろ子ども向けの本ですからね。子ども向けに書かれた本くらいが忙しい日常にはちょうどいい。ぜひ気軽に、ひとりでも多くの方に手に取っていただきたいなと思います。少し前の本ですが、内容は(残念ながら)まったく古びていません。
「みんな、車や家電の修理業者やら不動産業者をえらぶのには熱心だけど、自分が食べるものをだれがつくっているかには無関心。おかしいよね」
「知ると面倒なことになるような情報でも、知らないよりはるかにましです。[…]知らずに、ではなくわかったうえで行動する。これほど大切なことはありません。健康でいたい、地球もだいじょうぶであってほしい、と願う人にとって、「無知は至福[知らぬが仏]」はありえません。」
「1枚の紙の中に雲を見る一生」を歩みたいものだと思います。そして、その先に希望も見たい。