前編の「インドごみ紀行① 山岳地帯編」に続いて、本編ではデリーの様子と、旅の持ち物について紹介します。
2012~2013年にかけて家族で滞在して以降、3度にわたって出張に出向いたインド。最後の出張はコロナ禍の直前となる2020年3月でした。
「ごみ視点」から綴るインドの断片、ご覧ください。
目次
▶デリーの黙示録的なごみ集積場
前編で紹介した通り、壊滅的なごみ事情を抱えるインドでは、まともなごみ処理や資源化というものがほとんど機能していません。
都市部ではごみの収集が部分的に行われていて、↓この通り、表通りはわりにきれいだったりもしますが・・・
裏通りに入れば、↓どこもこんな感じ。
そして、分別もされずにめちゃくちゃに集められたごみが向かう先は、先進国でイメージされるような焼却炉や、きちんと管理された最終処分場ではなく・・・
↑このような文字通りの「ごみの山」! リサイクルなど言うに及ばず、集めたごみがただただ無差別に積み上げられ、まるで山脈のように累々と広がっています。
家族で滞在していた南インドのチェンナイ近郊にも、同じような「ごみの山脈」がありました。インド全土に、こうした場所が無数に存在し、インドのごみをただそのまま受け止めているようです。
まさに「カオス」といった様相の集積場ですが、一応部外者は立ち入れないようになっており、残念ながら、遠くから眺めることしかできません。なので目撃することは叶いませんでしたが、こうした集積場には無数の「ごみ拾い人(waste pickers)」と呼ばれる貧しい人たちがいて、集積場の内部または周辺に住み、ごみの中から換金できるものを拾い集めて生計を立てていると言われます。
いわゆる「カースト」の最下層にあたる人たちで、ほかに選択肢もなく、一生をごみの中で暮らしているそう。病気や危険と隣り合わせの劣悪な環境下で、子どもも多数。学校に行く機会も奪われ、最低限の尊厳すらもが奪われている状況です。ここにもNGOが介入し、子どもたちのための小規模な学校を準備したり、組合の設立を呼びかけて、労働者としての正当な権利を確保できるよう手助けしたりしています(※ちなみに、これはインドに限らず、世界の多くの途上国で似たような状況が見られるそうです)。
▶旅行者の出すごみ
意気消沈するような話になってしまいましたが、これはみなさんがいわゆる「途上国」と呼ばれる国に海外旅行する際に(※過酷な場所だけでなく、セブ島やバリ島などの美しいリゾートも含む)、ぜひとも心の隅にとめていただきたい現実です。
なぜなら、ごみの山脈行きになるのは、現地の人々のごみだけではないからです。旅行者が持ち込んだごみも、行き先は同じ。使い捨てグッズはもちろんのこと、「念のため」に日本から持ち込んだお菓子のパッケージや非常食のパッケージ、手をふくためのウェットティッシュに至るまで、現地で捨てたものは基本的にすべて「ごみの山脈行き」。
滞在するホテルのピカピカのごみ箱にごみを捨てるとき、まさかこんな光景のことまで思い浮かべる人はほとんどいないでしょう。でも、それこそは「隠された暗部」です。
仕方のない現実ではあるし、自分ひとりが旅行中に出すごみの量なんて、たかが知れているかもしれない。でも、やっぱり僕は、現地でできる限りごみを出さないようにしたいなと感じてしまいます。特に、「現地での買い物や消費から生まれたごみ」ならまだしも、「日本から持ち込んだごみ」で現地のごみ問題を悪化させるのは・・・先進国から来た気ままな旅行者として、やっぱり恥ずかしいような気がしてしまうのです。だから、旅行中に出たプラごみなどは、基本的にすべて持ち帰るようにしています(そもそもそれほどの量でもないので、自己満足と言えば自己満足ですが…)。
▶“ゼロウェイストな旅”の必携アイテム
そんなわけで、わが家の“なるべくゼロウェイストな旅行”に欠かせない必携アイテムもご紹介します。
その1.ステンレス製の弁当箱とカトラリー
これはもう本当に便利なので、絶対に忘れるわけにはいきません! うちは麻子さんが機内食が苦手なため、家からおにぎりなどの軽食を詰めていき、現地に着いたら洗って、この通り、軽食やお菓子のテイクアウトにフル活用します。
また、旅先では体調も崩しやすいし、見ず知らずのメニューで予期せぬ量の料理が出てきて慄くこともしばしば。そんな時、弁当箱は、残った料理の持ち帰りにも大活躍。
その2.基本の洗面セット
ホテルの無料アメニティは「本当に必要な時」以外は使いません。
わが家の洗面セットは、ステンレスの両刃カミソリ、竹歯ブラシ、自作の歯みがき粉(真ん中のガラス瓶)、シルクのデンタルフロス(奥の縦長のケース)。基本的には、ふだん自宅で使っているものをそのまま持参します。
歯ブラシはミニサイズの蜜蝋ラップでくるむと便利です。ちなみに、歯ブラシの隣にあるのは「クロモジ」という木の枝。水筒に入れて熱湯を注げばお茶にもなるし、和菓子を食べる際の「クロモジ」としても使われる枝なので、旅先で何かと便利です。インドではお腹を下しやすいので、予防策として持参した梅エキスを枝ですくって舐めたりもします(スプーンですくってもいいのですが、何となく、枝の方が防腐作用もありそう!?)。
両刃カミソリは、国内線なら機内持ち込みも可能だと思われますが、国際線では預け荷物に入れる必要があります。詳しくはこちらをご参照ください。
その3.重曹とヘチマ
今回はコロナ勃発の中、出発直前にかなりテンパってしまい、うっかり忘れてしまったのですが、重曹の粉とヘチマも旅先ではきわめて有用です。このふたつがあれば、旅先で弁当箱や皿もピカピカに洗えて安心だし、バスルームで洗濯だってできてしまいます(さらにはシャンプーや歯みがき粉の代わりにも!)。
もちろん、「重曹」でなく「石鹸」だってよいのですが、石鹸はぬるぬるして、旅先の持ち運びには意外に不便。重曹の粉は小瓶入りで持ち運べるので、重曹で代用できるものは重曹にすると、その辺の負担感が減る気がします。
今回のデリー滞在では、前回と同じFab Hotelというホテルチェーンに泊まったのですが(可もなく不可もない、特に特徴のないホテル)、去年は各部屋に備え付けられていたアメニティが今回は姿を消していたのがうれしい変化でした。バスルームには↓こんな詰め替えソープ&シャンプーがスッキリ取り付けられているのみ。
今回はうっかり石鹸を持参し忘れたので、この液体ソープ、すごくありがたかったです。アメニティの固形石鹸と違って、ごみも出ないし、中途半端に余ったものをどうしようかと頭を悩ます必要もない。気持ちよく使わせてもらいました。日本のホテルにあまり泊まらないので、日本国内のホテルの動向がわからないのですが、この詰め替えボトル式はひろまってほしいところです。
ホテルの室内には↓こんな貼り紙もありました。
最近は日本のホテルでも同種の説明書きを目にする機会が増えてきた気がしますが、このポジティブで明るい文面は魅力ですね。
▶街角の風景雑感
予期せぬことの起きる国、インド。普通に数日間、首都で過ごしているだけでも、ささやかにドラマチックな事態が頻発します。
朝起きたら、大木が倒れて、泊まっているホテルの壁に突き刺さっていたり――
突然降り始めた大雨で、一帯が洪水になって立ち往生したり――。
高級なオーガニック食材店もちらほら。その入口にはこんな貼り紙も。
↑この爽やかなトーンは、日本にももっと広がっていってほしいです。日本はどうしてもお店がへりくだり気味なので…。
↓活気あるマーケット「ディリーハート」の中には、何とゼロウェイストの野外スタンドも! オイルの量り売りまでやっているおしゃれなお店でしたよ。
ここ数年、インドではプラスチック製レジ袋が禁止され、違反した店には数千円の罰金(=インドではなかなかの大金)が課せられるようになったそう。ただ、「実際の運用はどうなんだろう??」と思っていたのですが、現地に行ってみると、やはり現状はまだまだ。紙袋を用意している店もある一方、 普通にビニール袋を配っている店も多くて、正直、拍子抜けしてしまいます。
さらに、レジ袋として「不織布の袋」を配っている店も目立ちました。「不織布もプラスチックなのになぜ!?」と思ったら、現地のごみNGOの人曰く、「行政の職員がその事を知らず、布だと思い込んでるからね…..」とのこと。この辺はなかなか根が深いところです。
すばらしき国、インド。まだまだこの国のごみ事情の改善には途方もない時間がかかってしまいそうですが、とにもかくにも、少しでも状況がよい方向に向かうことを願うばかりです。
ふとした運命で、8年間に4度も訪れることになったインドとのご縁も、これでひと区切り。次に訪れることができるのはいつになるか? その時にはごみ事情がどんな風に変わっているか? 期待と希望をもって、願うような気持ちで、応援したいと思います。