インドはごみ処理が国全体で滞っており、ごみによる環境汚染が深刻な事態となっています。僕は2012~2013年にかけて家族でインドに滞在して以降、現地の環境NGOとのつながりで、3度にわたってインド出張をしてきました。
最後の出張は2020年3月。コロナ禍に紛れて、インスタグラムでちょろっと発信しただけになっていましたが、せっかく見聞したものを少し振り返って、今さらではありますが、簡単にご紹介したいと思います。
目次
▶長距離列車でヒマラヤ方面へ
今回のメインの行き先は、デリーから列車で6時間、さらにタクシーで1時間半進んだ町から、さらに車でガタガタ道を1時間も登ったウッタラーカンド州の山間の村でした。
朝6時にデリー駅を出発。治安が悪いと言われるデリー駅は、まだ夜明け前。様子は・・・
無事に列車に乗り込み、ホッと一息。ほどなく日が昇って、車内サービスの紙コップのチャイをすすりながら窓の外を眺めます。
↓これはスマホを窓ガラスにあてて撮影した風景。
6時間の列車の旅はかなりしんどいですが、車窓からの風景は、町中ではなかなか見られない貴重なプレゼント。↓こんな町並みが現れては消え、現れては消えます。(やっぱり路上はごみの散乱がひどいです。道路の上にご注目ください。)
スラム街のような場所もたくさんあって、重苦しい気持ちに…。これは2017年、一緒に連れて行った当時小1の娘が撮影した映像(同じ列車の車内からです)。
朝6時にデリーを出発して、昼12時近くに終点に到着。そこからさらにタクシーで上へ、上へ…。
進むこと2時間以上。着いた場所は、山頂の小村。
▶天空のような村
まるで天空のような絶景。でも、こんな清々しい場所でも、ごみ問題は深刻です。
首都デリーでさえ、ごみ処理がまったく追いついていない国インド(全土に適正なごみ処理施設がほぼ存在しない)。ましてや、このような都会から隔絶された場所では、残念ながらまともなごみ処理が期待できる状況ではありません。
教育も行き届かず、プラスチックを含むすべてのごみがそのままポイ捨てされ、どんどん環境汚染が進んでしまう――そうした事態を打開しようと、都市部からNGOがサポートに入り、主に村の女性たちを対象にごみの分別や資源化のワークショップを開催し、女性差別の根強い山間部の村で、「女性のエンパワーメント」と「環境保護」の2大テーマに取り組んでいます。
曰く、「ごみ問題だけでは人は集まらない」ため、村の問題に耳を傾け、ニーズを聞き出し、必要なら子どもたちの教育や進学のことまで相談に乗るのだそう。そして、決まりきったノウハウを押し付けるのではなく、村の特性を生かし、地元の暮らしに沿った工夫を提案することが肝となるのだと、スタッフたちは語ってくれました。
植物を生かす知恵は万国共通。そこには鮮烈な魅力があります。これは「ティミル」という木の葉っぱだそう(聞き間違えでなければ…)。すぐ横に生えている木の葉っぱでした。
こういうエッセンスをもっと生活に取り入れられたら、暮らしがよりたのしくなること間違いなし! うちの庭なら、夏ならイチジクやウコンの葉。でも冬は枯れてしまうので、何か常緑の葉っぱも欲しいところ。おすすめの葉をご存じのかた、教えていただきたいです。庭に植えたいです。
▶衝撃の工芸品
軽食をたのしみながら、女性たちが披露してくれたのは、こちらの「手作り買い物袋」・・・
これ、何の素材かわかりますか? 僕も心底驚いたのですが、ポテトチップスなどのスナック菓子のプラ袋を編んで作った手提げ袋なのです。
なぜ、わざわざこんなものを作るのか? それは、山岳の村ではいちばん近いごみ処理場さえもが遠すぎて、プラスチックごみの行き場がなく、「他にどうしようもないから」。絶句してしまうような状況です。
「リサイクルできないプラごみを、言わば”アップサイクル”しているの。これを村の産物として売り出したいと考えていてね…」と明るく語るスタッフに、「本当にすばらしいね!」と返したのですが・・・心の内は複雑でした。
▶村のごみステーション
日本人にはにわかに信じられないかもしれませんが、これらの小村には、これまで「ごみステーション」にあたるものが一切存在しなかったそうです(つまり、すべてのごみがポイ捨てや野積みになっていた)。
今回、適切なごみの収集と資源化を目指すNGOの指導の下、各コミュニティに初めての「ごみステーション」が導入されました。
ワイルドな見かけではありますが、資源化できるものがきちんと分別され、清潔に保たれています。
▶“ゼロウェイスト結婚式”
隣の村では、ちょうど結婚式が開かれていました。
ただの結婚式ではありません。NGOとの連携の下、「ゼロウェイスト」をテーマに、自然の植物や花をふんだんに配して、リユース食器を活用した先進的で美しい式です。
音楽あり、ダンスありの、にぎやかな会でした。↓これはフレンドリーでキュートなおばちゃま。「撮りなさい! 撮りなさい!」と煽るお茶目さ。
NGOの介入で、この地域一帯ではごみの散乱が少しずつ改善し、「村がきれいになった」「子どもたちが理解し、環境について口にするようになった」「昔ながらの葉っぱのお皿づくりを復活させたい」などの前向きな声が聞かれているそうです。
国土の広さを思うと、正直、気が遠くなりそうな人海戦術ですが、教育効果、女性の地位向上の効果など、「単なるごみ」以上の効果を生もうとするNGOの精力的な活動の様子には感服させられました。
次の投稿では首都デリーに戻っての見聞を紹介します。