プラスチックフリーやゼロウェイストの基本アイテムとして、すっかり存在感を増してきた竹製歯ブラシ。 使い心地もよく、ナチュラルな見た目も◎。わが家も数年前から使い始めましたが、当時はネットで探してもほとんど買えるものがなく、1本700円ほどの高級品を何とか探し出し、ドキドキしながら買った記憶があります。
それから2~3年。まだまだ「その辺の店で偶然目にする」というまでには普及していませんが、それでも、アマゾンで「竹の歯ブラシ」と検索すると、実に15種類くらいの竹歯ブラシがズラズラ~っと出てくるようになりました。
喜ばしい!! ですが、いざ買おうとすると、値段もバラバラ、見た目もバラバラ、一体全体どれを選べばよいものやら、皆目見当がつきません。1本130円くらいの「ほとんどドラッグストア並みの値段」から、1本700円くらいの高級品まで、実際品質はどの程度違うのか? 無駄なお金は払いたくないし、歯ブラシはずっと買い続けていくものなので、しっかりリサーチして、いちばん納得のいく竹歯ブラシを買いたいと思い立ちました。
目次
▶衝撃の事実:竹製歯ブラシは「100%生分解」ではない!
「竹の歯ブラシ ➡ プラスチックフリーのために作られた ➡ 毛も生分解プラが使われている」と、つい思いたくなるのが人情というものですが……(実際「100%生分解」と書いてある竹歯ブラシもあります)、今回の最大のポイントはこれ。「現時点では、どうやら100%生分解の竹歯ブラシはひとつも存在しないらしい」(※世界はどんどん動くので、もしかしたら時間差で出現しているというわずかな期待はあります)。→追記:朗報! 2020年秋、初の完全生分解性竹歯ブラシを発見し、試しました! こちらをご覧ください。
「竹歯ブラシ」と言うからには、ハンドル部分はもちろん“竹”。この部分は100%生分解します(=余計な塗装や混ぜ物がなければの話)。問題は「毛」の部分。竹と一緒に生分解するのかと思い込んでいたら、実は「そんなことはない」のが真相のよう。
「だって、それじゃ何のための竹歯ブラシ!?」「なぜ生分解プラを使わないの!?」と疑問が噴出します。しかも、まるでサスペンスのようですが、アマゾンの竹歯ブラシ各種を眺めていると、「毛も含め、100%生分解」や「毛は生分解プラ使用」を謳っているブランドが散見されるのです(または「竹だから生分解!」とだけアピールし、毛の材質についてはノーコメントのブランドも目立つ)。
これについて、アメリカのプラスチックフリー生活の第一人者ベス・テリーがとても興味深い解説をしてくれているので、まとめてみたいと思います。
▶明るみに出たウソ:メーカーが騙されている!?
世に先駆けて、2007年からプラスチックをできる限り使わない生活を開始し、その模様をブログ「My Plastic-free Life」で世界に発信してきたベス・テリー。おそらくプラスチックフリーの世界でもっとも一目置かれる存在のひとりです。その彼女が、「“生分解性歯ブラシ”に潜む真実」と題した記事を書いているのですが、その内容がかなりショッキング。ポイントはこちらです(※翻訳はすべて大意)。
その1.「生分解プラ」が本当に自然界で生分解するとは限らない
「毛は生分解性のあるナイロン4を使用」と謳うブランドが散見されますが、「ナイロン4の生分解性は実験室の特定の条件下で示されたに過ぎません」とベス。「ナイロン4が実際に冷たい海水の中で分解するのかどうか、きちんと実験結果を示せるメーカーはひとつもありません」。実際、「生分解」は温度や周辺の環境に大きく左右されることがわかっています。なるほど、「生分解性100%」を謳う歯ブラシでも、海に投げ込んだら(また土にそのまま埋めたら)、うまく分解せずにマイクロプラスチック状になってしまう可能性があるわけですね。
その2.そもそも「ナイロン4」ではない可能性もある
オドロキの事実はこれ。「ナイロン4使用と書かれていても、実際にはナイロン4が使われていない可能性がある」。それどころか、ベスに言わせれば、「きわめて疑わしいと思った方がよい」。
曰く、「ナイロン4使用」を謳っていたオーストラリアの代表的ブランドの歯ブラシを成分分析に出したところ、「生分解しないナイロン6が使われていた」というショッキングな結果が出たのだそう。このブランドはその後、「中国の業者に騙されていた」と公式に弁解していますが、そうしたケースはままあるとのこと。「もしナイロン4使用を謳うブランドがあれば、証拠を提示してもらいましょう」だそうです。逆に、「ナイロン4の使用」はそれくらい画期的なことなので、もし実現したらすごいアピール材料のはず。もし特段のアピールもなく、サラッと「ナイロン4使用」と書かれていたら……事態は大体想像がつきますね。
その3.「竹から作った毛」もあやしい
「竹繊維から作った毛」を謳うブランドもよく目にするけれど、「どう見てもプラスチックではないか?」と疑ったベスが、あるブランドを成分分析に出したところ、結果は「ポリエステル」。こちらのケースも、メーカーが中国の業者に騙されていたそうで、メーカーの担当者はショックを受けていたそうです。恐るべき事態…。
▶「豚毛」の歯ブラシもあるけれど……
もうひとつ、「天然の豚毛」という選択肢もあります。2019年現在、日本には残念ながら「竹や木100%のハンドルの豚毛歯ブラシ」は存在しないようですが(なぜかプラスチックハンドルや、竹+樹脂の混合ハンドルのものしか見当たらない)、欧米には豚毛を使った「100%生分解」の信頼できるブランドがあります(たとえばこちら)。 →追記:2020年秋に発見したGaia Guyの豚毛の竹歯ブラシについてはこちら。
「これはいい!」と一瞬湧き立ったのですが、いやはや恐ろしい値段…。日本で買うと、1本800円+送料=実質1本1300円くらいになる上、8本セットや10本セットでしか買えない(つまり買い物金額は1万円をゆうに超える)となると、さすがに非現実的……(いつの日か使ってみたいです)。
また、日本ではあまり動物愛護やヴィーガンの観点が語られませんが、欧米では「豚毛=動物なのでNG」という向きも少なくありません。ベス・テリーの見解はこう。「豚毛は中国の食肉産業の副産物で、本来は捨てられていた部分の有効活用とも言える。だから、あなたが菜食主義者でなければ、豚毛歯ブラシは良い選択肢でしょう」。
ただ、彼女自身はと言えば、「私はカリフォルニアでローカルかつ人道的に育てられた牛や豚の肉しか食べないことに決めているので、どんな風に育てられたのかわからない中国の豚の毛を使う気にはなれません」ときっぱり。「もしカリフォルニアの人道的な養豚場が歯ブラシメーカーと提携して歯ブラシを開発してくれたら、私としても信頼できそうです」とも。なるほど~。そんな「国産」、日本にも出現してほしいものです(日本は竹の産地でもありますしね)。
▶決定:マイベスト竹歯ブラシ2019
ほとんどの歯ブラシが「ハンドルは竹、毛はナイロン」というどんぐりの背比べの中、ベス・テリーを始め、カリフォルニアのブランド「Brush with Bamboo」を推す意見が目立ちます。僕自身、今回いろいろ、本当にいろいろ見比べた結果、現時点での「マイベスト歯ブラシ」はこの「Brush with Bamboo」だなという結論に至りました。Brush with Bambooのアピールポイントは……
- ハンドルはオーガニックバンブー、毛は「ナイロン38%、ひまし油62%」
- アメリカ農務省に「95%植物由来」と公式に認証されている
- パッケージも、テープや糊を使わない紙箱入り
- ハンドル部分に接着剤不使用
- 内袋はセルロース製で(植物由来)、庭で堆肥化できる
- 企業姿勢が信頼できる
最大の特徴は「ひまし油62%」の毛。ナイロンを使用していることに変わりはありませんが、数あるブランドの中で唯一「ナイロン100%」に安住せず、少しでも石油資源への依存を減らそうとしている点は特筆に値します。しかも、目を引くのはその姿勢 ―― 公式サイトには「どれほど考えた上での選択か」がパッションあふれる言葉で綴られています。曰く、「世界最先端のバイオ由来の毛だが、それでも生分解はしない」「これが現時点でのベスト。完璧ではないけれど、正しい方向への一歩だと考えている」「さらによい素材の開発を求めている」「私たちの選択を応援してほしい」などなど(大意)。
これはすばらしい! 個人的には「ひまし油62%」以上に、この「前向きな企業姿勢」に魅力を感じます。「現時点での限界をまっすぐに受け止め、さらに前を向く」という姿勢は、持続可能な社会の実現に向けてもっとも大切なことだと思うからです。
ただ、 肝心の値段は、残念ながら日本ではまだほとんど取り扱いがないため、日本で買おうとすると、1本800円以上と超高額! アメリカAmazonから直接買えば(※サイトは英語ですが、日本人でも簡単に買えます)、4本セットなら日本への送料込みで1本あたり680円ほど、8本いっぺんに買えば1本あたり580円ほどまで値段は落ちますが、正直これでもまだ高い(16本いっぺんに買えば1本あたり500円以下まで下がりますが、さすがに16本は多い…)。果たして、その値段の価値はあるのでしょうか!?
▶考察:「値段」の裏側にあるもの
先ほど箇条書きでBrush with Bambooのアピールポイントを列挙しましたが、実はその多くは「決定打」ではありません。たとえば、ハンドル部分の「オーガニックバンブー」は、竹はそもそも一般的に農薬を必要としないので、ほかのブランドもみな同じかもしれないし、「エコな紙箱のパッケージ」も竹製歯ブラシではわりに普通のこと。最大の特徴である「ひまし油62%」の毛に関しては、実は一部批判もあって、上述のオーストラリアの競合ブランドは、次のような見解を公式サイトに掲載しています(大意)。
「 植物由来の毛に騙されないで! ひまし油から作った植物由来の毛…たしかにそうかもしれないけれど、そこにはものすごい化学処理が施される。ひまし油は、メタノール処理を経てリシノール酸メチル➡熱分解によってヘプタナール&ウンデシレン酸メチル➡加水分解でウンデシレン酸➡さらに3つの化学反応によってアミノ何とか酸(※調べても日本語が出てきません)➡最終的にナイロン11に重合される。これが「ひまし油で作った毛」に聞こえるだろうか? もはや「土からできた車」と大差ない。」
う~む、化学に疎い自分としては、こんなふうに書かれてしまうと、考え込んでしまいます…。正直、このオーストラリアのブランドの「自分が中国の業者に騙された過去は棚に上げて、他人を批判」という姿勢はちょっとどうかと思うのですが(もしかしたら、ウソを暴いた“ベス・テリーとその仲間たち”への腹いせもあるのかなと邪推)、それでも「ものすごい化学処理をしていそうなこと」は想像に難くありません。
でも、それを言ったら、ナイロンだって同じことでは? って思うのです(何しろ化学に疎いので、あくまで「イメージ」ですが)。一般的に、プラスチックの製造にはすごい化学処理+添加剤が介在していると言われます。ひまし油の毛が「それ以上にケミカルなのかどうか」、それは素人の自分にはわかりようがないのですが(だれか教えてください)、その中でひとつ判断材料として浮かび上がってくるのは、「徹底的にこだわり、調べ尽くしている」というBrush with Bambooの企業姿勢です。
たとえば、「竹」ひとつ取っても、そのこだわりは圧倒的で、「単にオーガニック」にとどまらず、「収穫量を1%以下にとどめ、竹林の持続可能性を損なわない」「パンダの生態系を脅かさない(パッケージに記載)」「加工過程で一切有害化学物質を使わない」ことを明記しているし(これは「中国産」のリスクを考えると、とても重要)、「セルロース製の内袋」も、「遺伝子組み換えでない」ことを明記しています。
しかも、この「内袋」、実は2015年の時点では「ポリ乳酸」というトウモロコシ由来のバイオプラスチックで作られていました。バイオプラスチック製ということで、既に他社の一歩先を走っていたと思うのですが、ベス・テリーが指摘するとおり、ポリ乳酸は「大規模な堆肥化施設でしか」堆肥化できません(=つまり、庭には埋められない)。「セルロースなら庭に埋められるし、トウモロコシの食糧供給と競合しないのに…」という彼女の提案を踏まえてか、後にセルロース製に改善されたという経緯があるのです。
このこだわりと誠実さは、やはり無視するにはいきません。間違っても上述のオーストラリアのブランドのように「知らないうちに中国の業者に騙されていました…」という事態にはならなそうだし(※被害者を非難する気はないのですが)、仮にひまし油が「化学処理過多」だったとして、ここまで考えている会社が、「何も考えずに安易にひまし油に乗り換えている」とは思えません。やはり、様々な試行錯誤や比較検討を経て、「ひまし油がベストだ」という判断に至っているはずなのです(もちろん真実はわかりませんが、少なくとも「そう思わせる」だけの信頼感を勝ち得ている会社です)。この「信頼感」―「決してウソを言わず、限界は認め、常に前を向く」という企業姿勢こそが、Brush with Bambooの最大の武器と価値ではないかと思います。
たしかに1本600~800円は「とても高い」です。でも、逆にほかの「1本150円」とか「1本300円」の竹歯ブラシは一体何なのでしょう? もちろん、「意外なすぐれもの」である可能性もゼロではない。でも、ほとんどの歯ブラシには詳しい説明書きがないので、こちらとしてはわかりようがありません(きちんと作っているなら、そう書いてほしい)。1本100円台の歯ブラシの中には、中国製の「公式サイトさえない竹歯ブラシ」もあって(=検索してもアマゾンなどの販売ページしかない)、上記のBrush with Bambooの様々なこだわりを踏まえると、その裏返しで「一体どんな作り方をしているのか、推して知るべし」という部分はあります(それでも、プラスチック製の歯ブラシから一歩前進できる意味は大きいと思うので、とりあえずの「竹デビュー」としてはぜひ使ってみてくださいね)。
また、こちらのブランドは1本700円前後とかなり高価ですが(=Brush with Bambooと同じ価格帯)、その公式サイトを見ると、Brush with Bambooとあまりにトーンが違うので仰天してしまいます。「竹を使用」という以外に一切アピール材料がないばかりか、逆に「毛の素材は、何と70年の歴史を誇るデュポン社の高品質ナイロン6! つまりは抜群の安心感!」と、このご時世にあまりに能天気ではないかと思われる記載…(エコロジーの世界では巨大化学企業デュポン社はしばしば「悪の象徴」のように取り沙汰されているにも関わらず、です。竹歯ブラシがデュポン製を自慢してどーするの!?)。ナイロン6を使っていること自体はよしとして、それについて何の懸念もなく、しかもナイロン毛をカラフルに色付けしてしまって…(一体どんな着色剤を使われているのですか~??)。カラフルな毛の竹歯ブラシはこのブランドだけではないし、「子どもがよろこぶ」(もしや大人も!?)などのメリットもあるかもしれませんが、やはりそこには企業姿勢の一端が表れていると思います。
ちょっとネガティブな書き方になってしまいましたが、これら「どこがどうすぐれているのかよくわからない歯ブラシ」や「アピールしてほしくないことをアピールしている歯ブラシ」と比べると、やはりBrush with Bambooの存在は際立ちます。「理由あっての値段では」と思わせられます。
▶まとめ:使い心地と存在感
さて、ほかの竹製歯ブラシとの比較ばかりになってしまい、Brush with Bambooの使い心地についてまだ書いていませんでした。使い心地、大変よいです。 今まで使った竹歯ブラシは、「毛がやわらかすぎる」、「ヘッド部分が大きすぎて磨きにくい」と感じるものが多かったけれど、Brush with Bambooのものはとてもよい。開封した瞬間は、「やっぱりでかい」と思いましたが、いざ口に入れてみると、毛が短めだからか、ハンドル部分がカーブしているお陰か、奥歯まで心地よく磨けます(ただ、日本の一般的な歯ブラシよりはヘッド部分が大きいので、「大きすぎる」と感じる女性の方などは「子ども用」を使うのも一案かと思います)。
使用後は、「毛の部分をピンセットやプライヤーで抜き、ハンドル部分は土に埋めて、毛はごみに出しましょう」というのが竹歯ブラシの一般的な処分方法です。「簡単に抜けます」と書いてあるのをよく目にするのですが、はて、実際に試してみると、そんなにラクではありません…。
自分の分だけならともかく、家族全員分これをやるのはちょっとしんどいです…。まずは掃除や洗濯用ブラシとして再利用し、たまってきたら、まとめてノコギリでヘッド部分を切り落とすのがラクではないかと思います。
竹ということで「カビ」を心配される方もいると思うのですが、これまでのところ、特に困ったことはありません。風通しよく保管することで、普通に数か月使えています。その辺りの詳細も、追って「洗面回りのプラスチックフリー」としてまとめてみたいと思います。
すっかり長大なポストになってしまいましたが、かくのごとく、歯ブラシひとつ取っても、実に奥が深い。ゲッソリ消耗した感もありますが、同時に、「これだけの要素が詰まっている買い物」を十全に味わうことができて、たかだか1本数百円でものすごい充実感と言うか、「世界とつながった感」があります。そういう意味では、竹の歯ブラシの値段は、「日用品にしては高い」という以上の価値と意味を私たちに返してくれているとも言えますし、実際、それを選ぶという選択=投資によって、世界は少しずつ前進していくのだと思います。
引用したベス・テリーの文章は2015年末のものです。それから4年が経過しましたが、その間、現時点では「完全に生分解性する画期的な竹歯ブラシが登場した!」という情報は見当たりません。来年、再来年に期待を馳せつつ、しばらくはこのBrush with Bambooの歯ブラシとの付き合いをたのしんでみたいと思います。