トークイベントでプラスチックのお話をしていて、もっともビックリされることのひとつ。それは、「化繊の服を洗濯するたびに、毎回数百個~数千個のマイクロプラスチックが下水を流れる」ということ。
僕自身、わずか2年前まで(今となっては恥ずかしながら)まったく認識していませんでした。。。
ポリエステルやナイロンやアクリルなどの「化繊」って、れっきとした「プラスチック」なんですよね~。・・・って考えればわかることなのに、僕自身、考えてもみなかった。「人工的な布」だと思ってました…。これらは「繊維状プラスチック」と呼ばれる、文字通り繊維状に加工されたプラスチックなのです。
だから、その糸くずは、すべてマイクロプラスチック。それはもう本当にショックです。そうと知ったからには、なるべく天然繊維のものを使うように心がけたい。でも、今持っている化繊の服をすぐにすべて捨てるのも抵抗が・・・という方がほとんどだと思います。そんな方々の味方となる「マイクロプラスチックをキャッチする洗濯ネット」を紹介します。
目次
▶洗濯で流れ出るマイクロプラスチック
合成繊維の服を洗濯すると、細かい糸くずがたくさん流れます。その数は、ある研究によれば、「1枚の洋服を1回洗うたびに1900個」! 目眩がしますね。。。
まず、大きな糸くずは洗濯機のくず取りネットに引っかかるはずですから、そこに引っかかったものはとにかく厳重にごみ箱に入れましょう。
で、細かな糸くずはすべて流れていってしまいます。そして、下水処理場でもこれほど小さなマイクロプラスチックはすべて除去することができず(90~99%くらいはキャッチできていると聞きますが)、残りは海に流れていってしまいます。
割合から言ったら、「ほんの一部」かもしれません。でも、世界の数十億人が毎日毎日洗濯して、それが、毎月、毎年、そして何十年、何百年と積み重なっていったら、結果的にはすごい量が海底に降り積もっていくわけです。それは困る。重大問題です。抜本的な対策が望まれますが、まずはせめて自分の分だけでも、「できる限り、減らしたい」ですよね。
▶わが家のスタンス
わが家はもとから、綿、麻、羊毛など、天然繊維を好んで着ていました。なので、一般のお宅に比べれば、化繊の割合はもともとかなり少ない方かもしれません。それでも、完全排除はほぼ不可能です(そもそも、ついこの間まで完全排除しようとしていなかったし…)。たとえば・・・
- スポーツウェア/雨具・・・ほとんど合成繊維
- 下着や靴下・・・ゴムや伸縮素材など合成繊維入りがほとんど
- 縫製の糸・・・生地は天然繊維でも、糸は合成繊維が使われていることも多い
- ラベル/ボタン・・・完全に天然繊維ということはほぼ皆無
- 子どもの服・・・お下がりの服は合成繊維のものもいろいろ!
さてどうしよう!?? ―― いろいろ考えた結果、わが家の現時点でのポリシーは、「今気に入って使っているものは大切に使い、自分からは積極的に合成繊維のものを買うことはしない」です。
たしかに、マイクロプラを出していると気づきつつ、使い続けるのは大きなストレスですよね。ただ、多少の気休めとなる情報として、「現時点では、海洋汚染の全体から見れば、まだ衣類由来のマイクロプラスチックの割合は少ない」とのこと(研究者の知人から聞いた話)。この辺の研究はまだ始まったばかりで、さらなる研究が待たれますが、現状では、衣類の洗濯から出る「わずかな」マイクロプラを嘆くよりも、「大物」であるペットボトルやプラごみのポイ捨てを川や海に流さないことの方がずっと効果が大きいようです。
海岸をちょっと歩けば、すごい量のプラごみが落ちています(細かなマイクロプラの破片もすごくたくさんあってビックリしますよ! ぜひ探してみてください)。それを30分拾い集めれば、すごい量のマイクロプラ汚染を防げます。道路にも時々プラごみが落ちています。それをきちんとゴミ箱に捨てれば、それが海に入ることを防げます。そんな「罪ほろぼしのオフセット」で、“全体として”汚染の軽減に寄与できればいいかな、と今は思っています。
▶ドイツ発「マイクロプラスチックをキャッチする洗濯ネット」
そんな中の救世主がこちら! その名も「グッピーフレンド・ウォッシングバッグ」です(名前がかわいい)。ドイツの非営利団体が開発、パタゴニアが販売をはじめたことで世界的に認知が広まっています。
これに入れて洗濯すれば、マイクロプラスチックの「大半」をキャッチできるそうです。もちろん、「すべて」ではありません。本当に小さいものはメッシュをすり抜けてしまう。でも、「大幅に減らせる」というだけで大きな意味があります。まずは何事もそこからスタート!
日本でも、ちょっと検索したら、水原希子さんや、群ようこさんが既に使われているという情報を見つけましたよ。「さすが~」とイメージアップです。こういう有名人がもっと増えてほしいところです。
ひとつ、気になる点が! この洗濯ネット、実は素材が「ナイロン」なんです。。。「このネット自体からマイクロプラが出るんじゃないの!?」って思いますよね。
これについては、「大丈夫」らしいです。ナイロンと言っても、繊維状の「糸状」のナイロンではなく、「棒状」のモノフィラメントで作られているため、マイクロプラスチック化しないのだそう。もちろん「ゼロ」ではないかもしれませんが、とりあえずは安心しました。本当は天然繊維だとかっこいいけれど、天然繊維はそこまで小さなマイクロプラスチックをキャッチできないのでしょうね。
▶使い方
使い方は超簡単。ふつうの洗濯ネットと何ら変わりません。むしろ、サイズがかなり大きめでゆったりしているので、今まで使っていたネットよりも使いやすいです。ネットの3分の2くらいまで洗濯物を入れて、普通に回します。うちは毎回、洗う服は全部まとめて入れてしまいます。むしろ服も傷まなくていいかな~なんて。
洗い終わったら、中にマイクロプラスチックが溜まります。それを洗い流したり、その辺に払い落としたりしないよう厳重注意!!(←つい癖でしそうになります。) 注意深くごみ箱に入れましょう。
溜まる量は、洗うものの性質によります。毛が抜けやすいフリース類などを洗えば、たぶんたくさんカスが出るし、毛が抜けにくい服が中心ならごく少量しか出ません。わが家は、「何回か洗って、やっと少し溜まる」程度です。
糸くずは、天然繊維のくずも混じっているはずなので、すべてがマイクロプラというわけではないと思います。でも、取扱注意であることには変わりありません。あまりに少量なので、毎回きちんと取り除くのは正直不可能ですが、何回かに1回、大まかに取り除いて、そのまま使い続けていく、というやり方でよいそうです。
その他、注意すべきことがあるとすれば、ナイロン生地が摩耗しないよう、30℃以上のお湯で洗濯しない。乾燥機を使わない。尖ったものなどを入れない。直射日光で乾かしたりしない。手洗いでゴシゴシこすったりしない、など。(←これらの注意はそもそも普通の洗濯ネットが摩耗しないためにも大切なことですよ!!) 丁寧に扱うほど、長く使えると思うので、とにかく大切に使いたいと思います。値段も4000円と高めですから、しょっちゅう買い替えることは絶対に避けたい! ということで、僕は毎回腫れものにさわるかの如くデリケートに扱い、カーテンレールのところで穏やかに乾かしていますよ。
▶ただし、そもそも心がけたいのは・・・
この洗濯ネット、すごくいいなと感じるのは、 ドイツの製造元 が「これは根本的な解決策ではない」と公言していること。その通り、これは単なる一時的な対症療法なのです。それをわかりつつ、販売されているという点が、ウソがなくてよい。
そして、こういう商品をちゃんとセレクトして売り出すパタゴニアにも、改めて信頼感が増すな~と思います。
パタゴニアはもちろんアウトドアブランドですから、いろいろ合成繊維を使っています。そのジレンマの中で、どうあるべきか。それを真剣に考えている。そういう信頼感は何物にも代えがたいです。何しろ、まだ問題を知る人が少なかった2016年の時点で、既に問題を察知し、それを公表し、アクションを取り始めているのです(こちら)。これは感服モノです。コソコソ隠すのではなく、問題を敢えて公表しているんですよ!
それに比べて、ほかのブランド、どーですか!? (いまだに問題に気づいていないところ&見て見ぬフリをしているところがほとんどでは?) もうレベルが全然違います。僕は、どうしても合成繊維を買う必要があるときは(=子供の雨具やリュックサックやアウトドア用品など)、「絶対に」パタゴニアに投資します。「絶対に」です。そういうブランドが存在することがありがたいです。
根本的な解決策ではないグッピーフレンドウォッシングバッグ。いちばんいい点は、ズバリ、「衣服から出るマイクロプラスチックにちゃんと意識が向く」という点かもしれません。そもそも、天然繊維の服だけを洗っているなら、こんなネットなんて必要ないのです。中に溜まったごみを取り除くのも結構手間がかかるし、「もう本当に合成繊維は卒業したい!」という心理になるのは本質的に正しい。
この洗濯ネットをとりあえず使いつつ、より一層大切となるのは、服の素材を意識すること。そして、洗濯の回数を減らすこと。
洗濯のしすぎは、「清潔」ではなく、「環境破壊」であるということに、もっと多くの人が気づいたらいいなと思います。洗濯のしすぎは、水の浪費とエネルギーの浪費と水質汚染につながります。そして、洗濯する服の繊維を傷めます。その結果、人々がどんどん衣服を買い替えることになり、ファストファッション化(=どんどん安い服が捨てられ、途上国の劣悪な労働条件の中からもっとたくさんの服が作られる)が加速するのです。
天然繊維も、「天然繊維であれば何でもよい」というものではありません。コットンの栽培に大量の農薬が使われることは有名です。そして、「オーガニックコットン」ならよいかと思いきや、昨年、ユニクロや無印良品などが使用している新疆ウイグル自治区のオーガニックコットンが、実は弾圧下の強制労働でによって作られているという衝撃的な報道がありました。さらに、絹は蚕を虐殺することによって作られるし、毛は羊を苦しめる…。というわけで、今ある合成繊維をすべて天然繊維に置き換えたら・・・実は本当にそれが望ましい転換なのかどうか、微妙なところだという話もあります。
つくづく、いちばん大切なのは、そもそもの原点に立ち返って、「服の消費を減らすこと」。数を減らせば、環境汚染は必ず減ります(合成繊維を使い続けるにせよ、天然繊維に置き換えるにせよ)。そういう意味でも、まずは「今ある服を大切に」「このグッピーフレンド・ウォッシングバッグを使ってマイクロプラを最小化する」。これをとりあえずの堅実なる選択肢としておすすめしたいです!!