わが家は築80年の古民家。毎年、初夏になると、蟻が出現します。小さな蟻が、床にも、寝室にも、台所にも――。
生まれ育った神奈川の新興住宅地ではこんなことは一度だってなかったのに! 好き好んで地方移住したくせに虫が苦手な自分…(ちなみに妻は全然平気です)。でも、市販の忌避剤は殺虫成分が気になるし、何よりあのプラスチックケースごと「ごみ箱にポイ」はもう嫌だ!
―― というわけで、がんばりました。数知れないトライアンドエラー。大いなる期待とそれを上回る失望。途中、増え続ける蟻にノイローゼ状態になりつつも、ついにここ2年ほどは、見事、小蟻を完全制圧することに成功しています。たどり着いたのはシンプルこの上ない―ただしトロリと口溶けよく仕上げる―ホウ酸砂糖水でした。
目次
▶序章:当たって砕けたナチュラルな忌避法
ここは早回しで行きたいと思います。ネットでは様々な忌避法が「効果あり」とされています。主なものを挙げると ――
- お酢
- 洗剤
- 巣に熱湯をぶっかける
- チョーク
- 唐辛子
- シナモン
- コーヒーかす
- ミントやローズゼラニウムなどのハーブ
これらをとにかく片っ端から試していきました。が、なぜか思い通りの効果がまったく出ないのです(※わが家の場合)。
◎洗剤→その場にいる蟻は退治できても、「来させないようにする」ことができない
◎熱湯→そもそも巣が見つからないので撒くことができない
◎唐辛子パウダー、シナモン、コーヒーかす→蟻の通り道に撒くと忌避効果があるらしいが、試した限りではほとんどまったく効果は感じられない(単に撒いた場所が汚れるだけ…)
◎チョーク→来てほしくない場所に線を書くと、「石灰バリア」になって蟻は乗り越えられないと言うが、わが家の小蟻たちは平然と乗り越えてくる
◎お酢→盛大に撒き散らしたら、玄関がとんでもなくお酢くさくなった!(しかも効果ゼロ)
頭にきて、ついに見つけ出した巣にホワイトビネガーの熱湯水溶液をこれでもかとジャブジャブ注ぎ込みましたが(今から思えばひどい暴挙だけれど、あの時はほとんど発狂寸前でした…)、その酸っぱい地面の上を翌日も蟻はウジャウジャ歩いていました。
「おしゃれな忌避」を夢見て、ハーブも植えました。ミントやローズゼラニウムには、蟻のみならず、蚊除けの効果まであるそうなのです。そこで、家の周辺を魔除けよろしくミントとローズゼラニウムで包囲しようと決意。「これで蟻と蚊が来なくなったら、これぞ自然との美しすぎる共生だ!」とせっせと水やりに励んだ甲斐あって、ワサワサ繁茂。
部屋に入るたびに足がローズゼラニウムの葉に触れて、えも言われぬ芳香がフワリと漂うようになったところまでは目論見通りだったのですが、肝心の部屋の中は、蟻だらけ、蚊だらけ。。。
何もかもうまく行かず、小蟻は増殖するばかり。最後は途方に暮れて、泥くさくガムテープでベタベタ仕留めます。これ、リアルに「大量虐殺」という感じで、精神が参ります…。しかも、取っても取っても、またすぐやってくる。常に目を光らせ、数時間おきにガムテープ捕獲。甘いものは一瞬たりとも放置できず、インド風に水を張ったお皿に浮かべて厳重に管理(←これ、おススメです。こんな感じ)。冬になるまで間断なく続く小蟻との消耗戦 ―― 僕は心身ともに疲れ果ててしまいました(この間、妻は知らん顔。と言うか、どうやら蟻が目に入らない性質のようです…)。
▶転機:口溶けのよい毒餌をつくる
当初は、「なるべく殺生は避けたい」と思っていた自分。でも、もはやそんな悠長なことは言っていられません。万策つきて、市販の蟻コロリにも手を出しました。しかし……なぜか結構な確率で蟻コロリが効かないのです。特にわが家の小蟻たちはまったく寄り付いてくれないことが多く、新品の蟻コロリがほぼ手つかずのままごみ箱へ ―― これはゼロウェイストを目指すわが家にとって、屈辱以外の何物でもありませんでした。
そんな時、発見したのが、こちらホウ酸砂糖水の毒餌です。砂糖とホウ酸を少量の水で溶き、段ボール片に載せて仕掛けるだけ。砂糖におびき寄せられた蟻が毒餌を巣まで持ち帰り、全滅してくれるというもの。
ホウ酸は虫には強力な毒となりますが、人間には食塩と同じくらいの毒性しかないらしく、微量なら特に心配はいりません。さっそく試してみると、ウヨウヨ集まってきて、次の日には蟻は跡形もなく消えます。自然素材なので、使い終わったら、段ボールごとコンポストへ。「これはいい!」と一瞬湧き立ったのですが、これも蟻コロリと同様、まったく効かない場合があり、困惑しました。
なぜだろう??? ―― まず思ったのは、砂糖とホウ酸を「ただ水に溶く」だけでは、しっかり溶けず、ジャリジャリした砂糖の粒だけを蟻が運んでいってしまうのではないか(しかも水っぽくて運びにくそう)ということ。そこで、小鍋で火にかけ、しっかりねっとり溶かし混ぜるようにしてみました。トロリとした毒餌は、冷えるとお菓子のアイシングのように固まります。美味しそう! しかし、これにわが家の小蟻はほとんど寄り付かない。こんなに甘くておいしい砂糖の餌なのに、なぜ!?
じっと観察していると、小蟻たちは毒のアイシングに時折近づいてはペロペロ舐めます。それなのに、そのまま立ち去っていく。「もしかしてこれ、硬すぎてうまく食べられないんじゃ?」―― そこで今度は、小蟻が食べやすいよう、毒餌をもっとトロリと口溶けよく仕上げてみました。水を多めに加え、冷えてもガッチリ固まらず、透明度が完全には失われずに少しベタッとする感じに仕上げてみたのです。すると、あら不思議。今度は100%集まってくれるようになりました。集まってくれさえすればこっちのもの。大抵は翌日か翌々日には跡形もなく消滅します。この2年間、この方法で退治できないケースは1度もなく、僕は小蟻の心労で発狂することもなくなりました。
調べてみると、大きめの蟻は顆粒状の餌を好み、小さめの蟻は液状の餌を好む傾向があるという情報もあります。そういう意味でも、やはり「食感」は大事。「口溶けトロリ」は、わが家の小蟻たちに劇的な効果を生んだのでした。(逆に大きな蟻が出たら、顆粒状の餌を試してみたいと思います。)
▶総括:わが家の小蟻退治2020
さて、わが家の現時点での黄金テクニックをおさらいしておきます。
➀小鍋に小さなスプーン1杯程度のグラニュー糖+同量より少し少ないホウ酸を入れる。(たぶん同量でもいいのですが、毒入りであることを蟻に見破られたくなくて、ついついホウ酸を少なめにしています。)
➁水を入れ、中弱火にかけ、スプーンでかき混ぜて完全に溶かす。(途中で水が蒸発してしまったら、また水を足してやりなおせば大丈夫。)
③ほんの少し煮詰めて、ちょうどよさそうな口当たりに仕上げる。(この辺の加減は何度か練習すればすぐにコツがつかめます。煮詰めすぎると、冷えたときにアイシングのように固まってしまうので、水を足して調整。)
④毒餌を液状のまま数個の段ボール片に丸く垂らして、蟻の通り道の数か所に仕掛ける。(同じ餌でも、かかる場所とかからない場所があるので、複数箇所に仕掛けるのがおススメ。)
⑤蟻が警戒しないよう、あとはそっと放置して様子を見る。うまく行けば、数分で蟻が集まりはじめる。
わが家は今のところ、この方法で大体翌日か翌々日にはすべての小蟻が消滅します。翌々日になっても消滅しなかったら(わが家ではこの2年間そういうことはないのですが)、もう一度フレッシュな毒餌を作って仕掛けます(古い餌はそれ以上置いておいても誰も寄りつかないので庭土に戻す)。
▶補足:注意点とうれしいおまけ
◎好みの違う蟻には別の餌を
わが家の小蟻たちには抜群の効果を発揮してくれているトロトロホウ酸砂糖水ですが、蟻も種類によって好みはいろいろ。中には、「効かない蟻」もいるかもしれません。この方の考察によれば、同じ小蟻でもコロニーによって(?)違う餌を好む場合があるとのこと(おもしろい!!)。なので、もし砂糖水に寄り付いてくれない場合は、この方のように「ツナ」を使うなど、別の餌を試してみるとたのしそうです。(わが家はツナ缶は普段買わないので、自家製アンチョビで代用バージョンを作ってみたところ、蟻は見向きもしてくれませんでした)。
◎重曹で顆粒タイプの餌も作れる
重曹と砂糖を混ぜるだけの顆粒タイプの餌もネットでよく紹介されています。わが家は大きめの蟻には困っていないので、まだ試していませんが、これは本当に手軽なので(混ぜて皿に置くだけ! ただし、重曹とまんべんなく混ざるように、粉糖か、ミキサーで細かくした砂糖を混ぜる方がいいと思います)、大きめの蟻が出たら絶対やってみたいと思います。→やってみたら、すぐにかかりました!
◎子どもと一緒にやるとたのしい!
ノイローゼ状態の孤独な戦いからスタートした毒餌づくりですが、実は、子どもたちと一緒にやるとすごくたのしい!! 一緒に観察して、蟻がうまく集まってくると、親子でワーワー大興奮。さながら「自然との知恵比べ」。手軽なので、夏休みの自由研究にもおすすめです。唯一、「殺生」を子どもと楽しんでいる構図なのは気になりますが、そこは「本当は申し訳ないんだけど、嫌だったら家の中に入ってこないでね~ってことで許してね~」と唱えることでよしとしています。そもそも蚊だってゴキブリだって殺すわけだし、肉も魚も卵も食べるわけなので、むしろ変なタブーにせず、適切に向き合うことが大事かな、と。そういう意味でも、市販の殺虫剤に頼らず、手作りで害虫駆除に挑むのは、むしろ望ましい学びの機会ではないかな、と僕自身は感じています。
そんなわけで、今は蟻のストレスからも解放され、安寧の日々です。蟻は今も毎年出ます(たぶん家の回りに巣がたくさんあるのでしょう)。でも、もう怖くない。この「たとえ出ても大丈夫」という安心感はすばらしいです。そう言えば、インド滞在中も蟻に苦しんだ自分。彼の地では、助けを求めた大家さんに「インドの偉大なる共生の精神」を教わったのですが、残念ながら自分は「蟻と共存」できるほどスケールの大きな人間ではなかった。そこはとりあえず諦めて、せめてこのナチュラルな退治法で快適な暮らしを死守したいと思います。