さらば掃除機 ~ しずかな掃除ではじまる朝

子どもの頃から掃除機が大嫌いでした。母親が掃除機をかけ始めると、部屋中に何とも言えない電気臭が立ち込め、脳まで吸い取られそうな轟音が「ドドドドド」とすべてをなぎ倒していく。まるでブルドーザーのよう。お絵描きをしていても、絵本を読んでいても、すべては破壊し尽くされてしまう――幼い自分はいつも部屋の隅に避難し、慄然と立ち尽くすのでした。

小中学生になると、自分が掃除機をかけるようになりましたが、今度は言うことを聞かない掃除機に苛立ちました。コードが絡まる。そして、届かない。 「あと1メートルで隅まで終わる・・・!」という願い空しく、コードがブチッと抜け、モーター音が「キューン・・・」と途切れる絶望感。あきらめて部屋の隅までコードを引き抜きに行き、反対側のコンセント口まで歩いていって差し込み直し、再び掃除機のところまで戻っていって掃除を再開しなければならない屈辱のトライアングル。 狭いコーナーでは、掃除機の頭や首があちこちにぶつかり、肩がつかえ、Uターンすればすぐに胴体がひっくり返ります。あまりの不自由さにイライラが爆発し、「この馬鹿掃除機!」と叫んでいた当時の自分を今も覚えています。

――そんなすべてが、5年前、掃除機をやめたことで完全に過去のものとなりました。


▶お茶殻+ほうきでシンプルな掃除

きっかけは掃除機が壊れたことでした。元来家電に疎いため、量販店に行っても、どれを買えばよいものやら見当がつきません(店員さんの口車に乗せられそうな…)。既に当時、「テレビ」「炊飯器」「オーブントースター」「電子レンジ」を卒業し、家電を減らす生活にある種の快感を覚えていたこともあり、「しばらくほうきで試してみるか」と思ったのは自然な流れでした。

以来、わが家は毎朝ほうきで掃除をしています。そのまま履くと埃が舞い上がってしまうので、必ずお茶殻を撒いてから履くのがポイント。紅茶、日本茶、中国茶、野草茶、どんなお茶でも構いません。コーヒー殻だってOK。前日に飲んだ分のお茶殻を、水気を切って取り置いておき、床にばら撒きます。「これからきれいにしよう」という床にお茶殻をばら撒くのは、最初は抵抗があるかもしれませんが、お茶殻の水分が埃を吸着してくれるので、驚くほどきれいに履けます。昔ながらの知恵は本当にすばらしいです。

前日のお茶殻をこんな風に取り置いておきます。

お茶殻の種類によって、香りが変わるのもささやかなたのしみのひとつ。ジャスミンティーやアールグレイ、中国茶などは特に香りがよいので、飲んでいるときから「明日の掃除がたのしみだ…」とワクワクします。お茶殻までたのしみ尽くす、わが家の究極のティータイムです。


▶集めたごみは土に戻す、ほうきは壁に吊るす

ほうきで履き集めたごみは、ごみ箱に捨てたりせず、庭の土に戻します。基本は「お茶殻+埃」、それにせいぜい紙屑や髪の毛が混じる程度なので、何の問題もありません(※プラスチック片やテープ片のみ、庭でマイクロプラスチック化するといけないので、きちんと取り除いてごみ箱に捨てます)。

掃除機なら、中のフィルターを定期的に交換しなければなりませんが、ほうきの掃除にはそんな手間も一切なし。終わったら、壁に吊るしておけばよいので、かさばる掃除機を無理やり押し入れに押し込む必要もありません。

自然素材のほうきなら、吊るしておいても見苦しくありません(と思う)。

晴れた朝、部屋を気持ちよく掃き清め、ちりとりの中身を庭の土の上に戻す清々しさは格別です。掃除って、元来、清々しいものだと思うのです。 究極の理想は、早朝のお寺の掃除。京都に住んでいた頃も、朝、通りを歩くと、玄関先で掃き掃除をする人の姿がそこかしこにあり、「美しい」と感じました。 この「しずかに掃き清める」という時間の神聖さが、掃除機を使うと、「モーター音」や「電気臭」や「ごちゃごちゃのコード」で台無しになってしまいます。ほうきは、掃除の清々しさを日常に取り戻してくれるありがたい存在です。

しかも、ほうきは安価です。わが家は「せっかくならきちんと作られた自然素材のほうきがいい」と思い、こういったタイプのほうきを愛用していますが、こんな老舗の品でさえ、わずか数千円。 しかも、掃除機と違って急に故障したりもせず、かなり長く使えます。使わない手はありません。


▶番外編:ほうきの掃除Q&A

Q1. お茶殻やコーヒー殻で床にシミがつきませんか?

個人的には、草木染や柿渋の発想で、床にお茶やコーヒーで深い色合いがつくのも悪くないかな…なんて思っています。なので、まったく心配していません。心配していないどころか、お茶やコーヒーの成分(抗菌作用や防虫効果)が床にしみ込んで、「むしろよいのでは?」と感じているくらいです(根拠はありません)。わが家の床は、もっともシミがつきやすいタイプの無垢の杉板ですが、特にシミが気になって困るということはありません。

Q2. 床板の隙間にお茶殻が詰まりませんか?

それほど心配ありません。もちろん多少は詰まりますが、ほうきの毛先である程度は履き出せるので、気になるほど詰まるということはありません。

この通り、隙間もわりに大丈夫。(むしろ、よく見ると、お茶殻のシミかもしれないムラがあることに気づいてビックリ!←でも全然気になっていません。)

Q3. サッシのレールにごみが詰まりませんか?

詰まります! これが「全方位メリットだらけ」のほうきの掃除の唯一の欠点かもしれません。わが家はなるべくチリトリでごみを集めるようにしていますが、集めきれないごみはそのまま庭へ履き出します。するとどうしてもサッシのレールはこのとおり。

これは「イヤ」と思う方にとってはイヤでしょうね(当たり前か…)。この写真は完全に無防備な状態(つまり、写真を撮るために直前に掃除をしたりしていない状態)なので、もう少しきちんと履いたら、もう少しきれいになると思いますが、あまりやりすぎると、ほうきの毛先が傷む気もするのです。だから、わが家は「ま、適当でいいかな…」で終わらせています。ちなみに、いちばんごみが詰まりやすいのがアルミサッシで、玄関なら↓この通り、ずっとすっきりです。

Q4. 掃除機は絶対に不要ですか?

家の中では「ほぼ不要」だと思います。ほうきで掃除しにくい場所も、雑巾で拭けば解決する場合がほとんど。ただ、唯一「掃除機が必要だな…」と思うのは、車の中です。あの凸凹から埃を取り除くことができるのは、おそらくは掃除機のみ。わが家は掃除機がないので、時々ガソリンスタンドのレンタルサービスでカークリーナーをお借りして掃除していますが、やはり掃除の頻度は低下しがち。で、車内は汚いです。「カークリーナーくらいは買っておこうかな…」と思う(だけで先延ばしにしている)今日この頃です。

考えてみれば、これはじゅうたんも同じことですね。ラグなら洗濯できるけれど、カーペットやマットなどは洗えません。どうしても掃除機に頼る形となります。そういう意味でも、無垢の素材、洗える素材は暮らしをシンプルにしてくれる、と思いました。