焼却大国ニッポン ~ 日本のリサイクル率はなぜこんなに低いのか?

毎日のごみ。一体どのくらいが焼却され、どのくらいがリサイクルされているのかご存じでしょうか?

あまり知られていませんが、実は日本は世界一の焼却大国です。文字通りの世界一、日本ほどごみを燃やしている国はほかにありません。

この話をすると、大抵の方が驚きます。何しろ日本では、「ごみ=燃えるごみ」。でも、海外のほとんどの地域には「燃えるごみ」という分別概念自体が存在しません。ごみを燃やすのは決して一般的ではないのです。

そして、リサイクル率はと言えば、先進国の中でおそらく最下位の低さです。ほかの国と比べてみると、日本のごみ処理の特異な状況が見えてきます。順に見ていきましょう。


▶日本のリサイクル率はどのくらい?

まず、日本の一般廃棄物の処理の現状を見てみましょう。環境省の最新データ(H29年度分)をもとに、「焼却」「埋め立て」「リサイクル」を円グラフにまとめてみます(独自に作成)。

この通り、焼却が8割。残る2割がリサイクルと埋め立てという状況です。この割合は10年前とほとんどまったく変わっていません(=リサイクルが全然伸びていない)。

<注>
※「焼却」は、「直接焼却炉で燃やされたごみ(=76%)」 +「粗大ごみ処理施設などから最終的に焼却に回されたごみ(=約3%)」=計79%としてグラフ化しています。
※「埋め立て」は、「直接最終処分場に埋め立てられたごみ(=1%)」+「粗大ごみ処理施設などから最終的に埋め立てに回されたごみ(=1%)」=計2%としてグラフ化していますが、実際にはこれに加えて、焼却灰などの焼却残渣(=7%)も最終的には埋め立てられるため、全ごみの約9%にあたる量が埋め立てられています。
※「資源化」は、「直接資源化された量(=わずか4%!)」+「集団回収による資源化(=5%)」+「粗大ごみ処理施設などから焼却や埋め立てに回された分を除く資源化分」=計18%としてグラフ化していますが、環境省の公式な数字では、「焼却灰のセメント原料化」などの焼却残渣の利用も資源化にダブル計上されているため、日本の公式なリサイクル率は「20%」ということになっています。

最近はごみの分別もずいぶん細かくなってきて、たぶんみなさん、「新聞」「雑誌」「段ボール」「牛乳パック」「ミックスペーパー」「アルミ缶」「スチール缶」「金属」「ガラス瓶」「ペットボトル」「容器包装プラ」「衣類」「植木剪定枝」など、実に様々な品目を分別されていると思うのですが、こんなにたくさんの品目を分別しても、リサイクルはたった2割。

しかも、この2割には、「焼却灰のセメント原料化」や「溶融スラグの有効利用」、「プラスチック等の固形燃料化」、「セメント等への直接投入」、「飛灰の山元還元」など、一般人としては思わず「それってリサイクルって呼ぶの!?」と首をひねってしまうようなものが計3%以上足し上げられていますので、一般人がイメージするようなリサイクルは実質16~17%ほどと言っても過言ではありません。


▶では、海外のリサイクル率はどのくらい?

日本のリサイクル率は、世界的に見てどのくらいのレベルなのか? OECDの最新のデータをグラフにしてみましょう。すると、この通り、「いわゆる先進国」の中で日本はほぼ最下位に位置していることがわかります(※ニュージーランドはデータなしのため、ゼロとなっています)。

ドイツ、韓国を筆頭に、全体の4分の1にあたる8か国がリサイクル率50%以上です。OECD加盟国以外でも、台湾はリサイクル率50%以上で世界トップクラス、シンガポールも約37%に上ると見られ(※シンガポール政府が公表している「リサイクル率60%」という数字は、こちらのシンクタンクの調査によると算定条件のトリックのようです)、日本の「20%(またはそれ以下…)」という低さは嘆かわしいと言うよりほかありません。日本人は概して几帳面だし、缶に瓶にペットボトルにと、結構きちんと分別しているはずなのに、なぜこんなに低い数字になってしまうのか???

<注> 各国のごみ処理は本当に千差万別で、統計の取り方も様々なので、この数字はあくまでも「ざっくりとした比較」であることはご承知おきください。ニュージーランドの「データなし」にも象徴されるとおり、数字の信憑性や算定条件などは慎重に確認する必要があります。とは言え、日本の「20%(以下?)」という数字は、「どう転んでも低い」です。

その答えのひとつは、「生ごみ」です。上位国の多くでは、生ごみの分別資源化(堆肥化や飼料化)が進んでいます。日本では、生ごみの分別資源化をしている自治体はごくごく一部(しかもほとんどが地方の小規模な自治体ばかり)。今も生ごみはほとんどが「燃えるごみ」です。対するお隣の韓国では、ずいぶん前に生ごみの直接廃棄(韓国の場合は当時は埋め立て)を「国として禁止する」という大胆な政策が取られたため、生ごみの資源化が一気に進みました。

ごみの30~50%を占める生ごみが資源化に回れば、リサイクル率は大幅アップします。日本だって、生ごみさえ何とかすれば、すぐに上位国の仲間入りができるのです。

実は、世界広しと言えども、日本ほどきちんと分別している国は超少数派。日本の自治体は10~15分別が当たり前。20分別を超える地域も少なくありません。これは教育水準が高く、ルールに従順な日本だからこそ可能という部分もあるようで、特に欧米で「15分別」などと言うと、大抵目を丸くされます。

たとえば、カリフォルニアはたった「3分別」。①生ごみと草木、②資源物すべて、③その他のごみ ―― たったこれだけです(↑トップの写真がそのシンプルな3色の分別の風景です)。資源物は、「紙」も「缶」も「瓶」も「プラ」もすべてごちゃまぜに集め、収集後に機械選別します。日本人からすれば、「何て大雑把!」という感じですが、①の生ごみと草木をバッチリ堆肥化しているので、リサイクル率は50~60%と世界トップクラス。日本など足元にも及びません(こんなにあくせく分別しているのに悔しい!)。

以前、カリフォルニアのごみNGOでインターンをしていた頃、上司の男性に日本のごみの分別について質問され、自分はここぞとばかりに、「日本のきめ細やかな分別システムの伝統」について説明しはじめました。すると上司:「15分別もしてリサイクル率がたった2割って……一体全体何を分別しているの??」――この言葉には返すセリフが見つからず、絶句するしかありませんでした。そう、缶や瓶やペットボトルや牛乳パックをどれだけきちんと分別したって、いちばん割合の多い生ごみを何とかしなければ、日本はいつまでもいつまでも、未来永劫最底辺を抜け出せないのです。


▶世界の焼却ランキング

さて、日本はごみの8割を燃やしていると書きました。これを同じOECD加盟国の最新データでランキングにしてみると、この通り。

<世界の焼却ランキング>

1位 日本 77%
2位 ノルウェー 57%
3位 デンマーク 54%
4位 スウェーデン 50%
5位 オランダ、スイス 49%
    ///
10位 ドイツ 35%
12位 フランス 34%
13位 韓国 25%
16位 イギリス 21%
19位 アメリカ 12%
25位 カナダ 4%

日本、2位以下を大きく引き離して、ぶっちぎりのトップです!! 日本人には衝撃の事実ですが、日本ほどごみを燃やしている国はほかにないのです。(※OECD以外を合わせると、シンガポールが約60%の2位にランクインしそうですが、そのほかは、台湾が40%強、香港は意外にも焼却をしておらず、日本の1位は動かなさそうです。詳しくは後述)

もちろん、ほかの国も「焼却以外のすべてをリサイクルできている」わけではありません。「ではどうするのか?」と言うと、埋め立てています。

日本では、最終処分場逼迫の歴史もあり、「埋め立て=悪」「燃やして減らせ!」という意識が強固なので、「燃やさずにそのまま埋め立てるなんてどーなの!?」と抵抗感を持つ人も多いかもしれません(僕も以前はそうでした)。でも、世界では、実はまだまだ埋め立てが主流。国土の狭い日本では、ごみを燃やして埋め立てを減らすことは必須と思われていますが、海外では、焼却は、①高コストである、②ダイオキシンなどもともとのごみにはない有害物質が発生する、③何でも安易に燃やしてしまうためリサイクルが進みにくい、など様々な理由で批判の対象となることが多いです。

もちろん、埋め立てにも問題はいろいろあるので、「埋め立て=◎」「焼却=✕」と単純に言い切れるわけではありません。北欧では焼却による発電も進んでおり、「ただ埋めるよりはエネルギー回収を」という向きがあるのも事実です。

ただ、日本人が思っている以上に、焼却は議論の対象となります。カリフォルニア州などは、州政府や市役所が「州内にひとつも焼却炉がない」「今後も稼働させるつもりはない」と誇らしく明言しているほどで(つまり「焼却炉=循環型社会を阻む要因になる」というスタンス)、「国じゅう焼却炉だらけ」の日本と大きな温度差を感じます。


▶「狭いから」とせっせと燃やしてきた結果・・・

日本が焼却大国であると言うと、「日本は国土が狭いから仕方ないのでは?」という反応もよく耳にします。たしかに、この過密な日本のどこに広大な最終処分場を増設できる余地があるのかと考えれば、それが困難であることは言うまでもありません。でも、翻って、ほかの小国に目を向けてみると・・・シンガポール、台湾、韓国、香港、ベルギー、オランダ ―― 世界には日本より遥かに小さくて人口過密な国地域がたくさんありますが、日本ほど焼却に依存しているところはひとつもありません。

つまり、面積が小さく、人口密度が多いからと言って、必ずしも「日本のようにごみを80%も燃やさなければどうしようもない」わけではないのです。

日本は戦後の復興と高度経済成長の中、1960年代から70年代にかけて、世界に先駆けて、焼却をごみ処理の中心に据え、莫大なお金を投入して国じゅうの自治体に焼却炉を据え付けてしまったという特異な歴史があります(この辺の歴史も紐解くとおもしろそうです)。以来一貫して、焼却炉の建設維持がごみ処理の主軸をなし、途中露見したダイオキシン問題も何のその、巨額の予算を追加投入することで設備を徹底強化、世界的には難易度が高いはずの「高コスト×ハイテク」な焼却処理が当たり前のように張り巡らされる稀有な国家ができあがったのです。

なまじ「すべて燃やして何とかなってしまう」だけに、3Rの推進は二の次になりがち。むしろ、燃やすごみが減りすぎると、焼却炉の安定的な稼働が阻害され、逆に大量のごみをまとめて燃やせばコストが下がるため、「本気でごみを減らそう」というモチベーションが生まれにくいとも言われます。日本のリサイクル推進がいつまでも進まないことと、焼却への重度の依存は、切っても切り離せない関係と言えそうです。

50年も続いてきたこの歴史を今さら簡単に覆すことはできないかもしれません。でも、この現状を踏まえて、いかに生ごみの資源化をシステムに組み入れていけるのか。そして、いかに「その方向」に向かっていけるのか。本気のブレイクスルーが欲しい・・・ところではありますが、「その気配が今のところ全然見えないんだよねぇ…」というのが、今の日本のごみ処理の現状です。