教育の大切さを思えばこそ、困惑が収まらない💦
ご覧になりましたか? 先日のアカデミー賞短編ドキュメンタリー部門にノミネートされた、世田谷の公立小を舞台にした山﨑エマ監督の『Instruments of a Beating Heart』、そして、全国で公開中の長編『小学校~それは小さな社会~』(ここからの抜粋版が前者)。
短編版はYouTubeで無料公開されていますのでぜひご覧ください(23分)。
実は断じて!「おすすめの映画」とは言いたくないのです。むしろ個人的には強く違和感を覚えたのですが、「いろいろ考えさせられた」という意味で非常に意義深く、たくさんの方に観ていただくに値すると感じる映画です。
僕は高知に住んでいるので残念ながら劇場公開中の長編版は観れていないのですが、短編版だけでも強烈なインパクトでした。
*以下、ネタバレを含みます*
何が凄いって、「感想が真っ二つにわかれる映画」なのです。
ネットやSNS上では、「子どもが可愛かった💛」「先生たちすごい💛」「小学校っていいな♪」「日本の教育すばらしい」というキラキラの感想が目立つ一方、「つらすぎて直視できない」「トラウマが蘇った」「日本のモラハラ教育を告発する映画にしか見えない」という感想も多々。
・・・何を隠そう、僕は後者の感想です。ホント、観ながら「ヤバッ…」という気持ちを抑えられませんでした。「こんな問題含みなシーンの連続、どうやって出演許諾を取れたのだろう?」と、監督のインタビューを観たら…
何と監督は「日本の教育のすばらしさを伝えるためにこの映画をつくった」そうで…
上記のポジティブな感想しかり、なるほど人によって、こんなにも感覚がちがうんだ…と、改めて世界の広さを知った次第です。
僕自身は小学校になじめなくて苦しかった人間なので、この映画を観て、改めてその苦しさが迫ってきました。さらに言えば、(もちろん映像のすべてのシーンを否定するわけではないですが)「こんな有様が正当化されること」に学校の恐ろしさを感じたりもしました。これに胸を張る先生が多いとしたら、教育現場はそりゃ変わらないはずだな~とか。先生は子ども時代にこういう体験をポジティブに乗り越えられた「勝者」が多いのかな~とか。
でも! この映画、海外でも評判がよいらしく(とは言え、フィンランドで絶賛という売り文句は、現地から岩竹美加子さんが全力否定されていますが)、ニューヨークタイムズの視聴者コメント欄を覗きに行ったら、そちらにも好意的な感想がたくさん!
「アメリカにはないすばらしい協調性」とか、「他人に配慮できる子たちに涙が出る」とか、「この教育に学ぶべき点が多々ある」とか…(一方、「この子たちは学校に登校しても銃撃で命を落とす心配などなくて恵まれている」とか、「みんな栄養状態がよさそうですばらしい」とか、なるほどたしかにそういう評価軸も忘れちゃいけないよね、という感想も💦←たしかに日本、本当に恵まれている!)
アメリカの人が外から見たら、たしかに「この裏に渦巻くもの」は見えないだろうから、いい面だけがキャッチされるのかもしれない。でも、あの協調性、先生からの相当な圧がかかってる気がするんだけど? 全然子どもたちののびのびした自発性ではない気がするんだけど? そのせいでみんな自分の意見が言えなくなって、この妙に窮屈な日本の空気ができあがってるような気がするんだけど??(=もちろん変わりつつあるし、日本のこと大好きな自分もここにいます)
いや~ グルグルが止まらないのです。監督はほとんど無邪気なまでに「日本の教育推し」を表明していて、僕は引いてしまうのですが、監督だって賢い人のはず(何せ、伊藤詩織さんのBlack Box Diariesのエディターさんなのです)。まさか、あの映像が物議を醸さないと想像できないはずもない。単純な日本の教育推しなら、もっと「きれいな」シーンを選ぶことだってできたはず。
それなのに「敢えてああいうシーンを入れる」というのは…確信犯? 策士? やはり本当の意味での「議論」を狙っているのだろうか?? そういう意味では(やはり)手腕のある作品だと思える。が、インタビューを観ると、とりわけそういう意図があるようにも見えず、再び困惑…
危惧するのは、これを観て、監督の狙い通りに「日本の教育はすばらしい」と安易に結論づけてしまう人(特に教育関係者)が出てくること。アカデミー賞はあくまでも「作品への評価」であって、決して「日本の教育への評価」を意味するわけではないはず(なのにそういう論調が目立つ)。
念のために言えば、僕自身、日本の小学校教育は基本的にはとても恵まれていてありがたいと思っています。先生たちの努力にも日々頭が下がります。でも、だからと言って、「単にすばらしい」で終わってしまうのは怖い。同じ映像を観てすごくつらいと感じる人がいること、そして、この教育が持つ様々な意味について、議論が深まるといいのだが~と願います、切に。