「スポンジの自給」という奇跡~ヘチマが紡ぐ完全な循環

「ヘチマたわし」を使うつもりなど、さらさらなかったのです。

でも、ここ香北町に引っ越してきてまもなくのこと。近所の直売の片隅で、ヘチマを輪切りにしただけの「石鹸置き」が販売されているのを妻が発見し、買ってきました(いつもながら妻は嗅覚が冴えています)。

一目見て、「きれいだな」と思いました。断面の繊維の紋様はまさに自然の造形美。また、これを「石鹸置きとして使う」という変化球のアイディアにも惹かれるものがありました。

そして、使い始めてみてビックリ。ヘチマは「単なる自然素材の石鹸置き」を遥かに超える究極の存在だったのです。


▶史上最強の石鹸置き

「ヘチマたわしなんて・・・」と思っている方! 僕も数年前まではそう思い込んでいました。あのキュウリのお化けのような形状。使いにくそうだし、肌理も粗くて、痛そう――。

違うのです。ヘチマは「輪切りにしてこそ真価を発揮する」のです。

ヘチマの石鹸置きの凄さを列挙してみましょう。

個人的にいちばんしびれたのは、この最後のポイントです。「ただの石鹸置き」に終わらず、「スポンジとしての機能まで併せ持つ」、しかも「石鹸や洗剤をつける必要もなし」って、あまりに話が出来すぎではないですか! 石鹸置きとしてしか使えない市販の石鹸置きが、ただの役立たずに思えてくるほどです。

以前は、洗面台のそうじのあと、濡れたスポンジを扉の中に収納するのがいつも不気味でたまりませんでした。「収納せずに、石鹸置きとして常に出しておける」って、目からウロコです。さわやかの極み! そして、スポンジが「いつもそこにある」ので、ズボラな自分でもこまめにササッと洗面台がそうじできるようになりました。

とにかく家じゅうの石鹸の下に置きます

▶「ただのスポンジ」としても秀逸

こうしてヘチマの魅力に開眼したわが家でしたが、そこはやはり現代人。頭の固さはいかんともしがたく、「石鹸置き」として購入したヘチマを「石鹸置き以外」の用途に活用することなど夢にも思いつかず、しばらくはひたすら「石鹸置き」としてのみ、情熱的に使い続けていました。

そんなある日。ちょうど浴槽そうじ用のたわしがダメになってしまい、ふと洗面台の横にあったヘチマたわしで浴槽をこすってみたら・・・(当然かもしれませんが)ヘチマたわしは「ただのたわし」としても申し分ない使い心地であることが判明。

以来、わが家におけるヘチマの地位は上昇の一途をたどっています。食器洗いには基本は「びわこふきん」を使っていますが(わが家の食器の洗い方はこちら)、ヘチマも併用。ふつうのスポンジよりも硬くて食器にキズが付きそうなイメージがあるかもしれませんが、意外や意外、ヘチマは水になじむと、しっとりやわらか。デリケートな食器もやさしくこすることができます。

そして何より、汚れてしまったら土に戻せるのがうれしい。コンロ回りなど、布巾が汚れて困るような箇所も、ヘチマなら汚れを気にせずガンガン使えます。泥つきの人参やじゃがいも、ごぼうなど、根菜を洗うにも抜群に便利。しかも、自然のマジックでしょうか、汚れたヘチマを水ですすぐと、びっくりするくらいきれいになるのです。なので、「汚れを気にせず酷使している」にもかかわらず、「なかなか汚れずに長持ちする」という、どこまでも都合のよいヘチマたわしです。

普通のスポンジなら、擦り切れたカスがマイクロプラスチックとなります。そして最後は「燃えるごみ」。でも、ヘチマは「植物そのもの」ですから、そんな心配は一切無用。しかも、使い心地も、市販のスポンジに「まったく」遜色ありません。こんなにすばらしいものがあるのに、わざわざ限りある資源である石油を使って、プラスチックスポンジを製造して地球に負荷をかけてるって、もはや意味がわかりません。ほとんど不条理、狂気の沙汰です。


▶庭での栽培も一切手間なし

ヘチマのすごさはまだ続きます。お次は「庭で栽培できる」こと。「庭で育てて、最後はそのまま土に還せる」って・・・(感涙)。「スポンジの自給」ですよ! まさに、プラスチックにまみれた現代の奇跡! 

しかも、その栽培方法も、「一切手間なし」なのです。わが家は今年初挑戦しましたが、栽培はとても簡単、世話はまったく必要ありません。苗を定植して、あとはほったらかしにしておくだけ!

ゴーヤと隣り合わせに植えたら、絡み合って繁茂しました。

水やりひとつしないのに、夏の終わりにはいくつもムクムク巨大な実をつけはじめ、子どもと一緒にわくわく眺めて完熟を待ちました。

たわしにするには、実が茶色くなって、中の繊維が硬いスポンジ状になるまでじっくり待ってから収獲します。 ヘチマは沖縄では食用にも使われるポピュラーな植物。 昔ながらの化粧水「ヘチマ水」も作れます(どこまでも優秀なヘチマ!)。これら食用やヘチマ水用にはもっと若くみずみずしい実を収穫すると思うのですが、わが家はとにかくスポンジを自給したい一心で、今年はわき目もふらず、すべての実を茶色くなるまで放置! (来年は食べたり、ヘチマ水を作ったりしてみたいです。)

初挑戦にも関わらず、晩秋には無事、大ぶりの実をいくつも手にすることができました。ビギナーズラックじゃないといいんですが――でも本当に簡単に育てられるらしいので、みなさんもぜひ挑戦してみてください(いちばんのハードルは種や苗を入手することかも)。


▶驚異の「自然放置」でスポンジに

さて、いよいよ収穫したヘチマの実をスポンジに加工します。方法はいくつかあります。

➀昔ながらの方法・・・1週間~1ヵ月水に漬け、実をグジャグジャに腐らせて取り外す

これは、噂によると、すごく臭いらしいです。ってか、グジャグジャに腐った臭い水に手を突っ込むって・・・それ、現代人にはかなりハードル高い。。。いくらヘチマが愛おしくても、これでは100年の愛も一気に冷めそうです。「もっとマシな方法はないものか?」とウェブ検索してみると、さすがは現代。もっとスマートな方法が見つかりました。

➁現代的な方法・・・ぶつ切りにして30分ほど茹で、実と種を取り外したら乾かす

なるほど、これならできそう。ということで、今年はこの路線で行くことにしました。でも、巨大な実を何本も茹でるとなると、鍋に一度に入りきらないかもしれないし…ガス代も気になる。しかも、実は一度に完熟するわけではないため、「1本だけ茹でるのは非効率だな。次の実が完熟してから、まとめて茹でよう・・・」などと思っているうちに、ついつい、ついつい、そのまま時間が経過。

・・・初めてのことって、ハードルが高いですよね。あれほど大きな愛を抱いていたにも関わらず、慣れない不安感と日々の雑事にかまけて、結局は「せっかく収穫したヘチマの実をそのままほったらかし」。最愛の実たちは、窓際に打ち捨てられたまま、見るも無残に黒ずんでしまいました。「あーあ…」―自己嫌悪にまみれて、ついには見て見ぬふり…(意気消沈)。。。

そこに切り込んだのは、わが家の筆頭KY大臣、5才の息子。日曜日、親に無断で、わが家の至宝「放置ヘチマ」の表皮をビリビリバリバリに剥きまくっていたのです!!!

「!!!」――― 中から現れたのは、雪のように純白のヘチマたわしの完成形! まるでアンデルセンのファンタジーの世界!(=カエルに口づけしたら王子様になった的な???)。実を振ると、中から黒い種がどんどん落ちてきます。

これは大切に保存して、来年また植えます

感動しました。「うっかり放置」している間に、あんな黒ずんだ表皮の下で、静かに静かに、ドラマチックな スポンジへの 変身劇が進行していたとは…。ヘチマの偉大さ、生の神秘にひれ伏したい気分です。

息子をベタ褒めしたら、調子づくこと調子づくこと。次々に実を剥きまくってくれ、何十個ものヘチマスポンジが無事に完成しました。

長いヘチマたわしを包丁でカットすると、使いやすいスポンジが完成します。

この「皮剥き作業」、実際にやってみると、意外にハードです。執念深く表皮を剥ぎ取らなければならず、思ったよりも時間がかかります。ここはぜひ、子どもをおだててまかせるべきです(多少の工賃をあげてもいいかも)。

後日、30分茹でて実を取り外す「現代工法」も試してみたのですが、大鍋に実をギュウギュウ押し込み、大量の水を沸かし、火を30分も焚き続け、茹で上がった実をまたまた大量の水でジャブジャブ洗う――しかも、なかなか外れない種を指でつまみ出し、エンドレスに出てくる汚れを手でもみ続ける――←これ、相当な手間です。やはり、放置して、表皮をバリバリ剥く方が遥かにシンプル、ゼロウェイストです。

それに、茹でたら、中の種が死んでしまいます。その意味でも、「自然放置」は正解。エネルギーゼロ&子どもの動員で、大切に取り分けた種を来年も撒き、真に手間なしのスポンジ作りを続けていきたいと思います。

収獲のタイミングによっては、若干茶色くなりますが、それはそれで全然OK。市販のものは漂白剤で白くしたりするようですが、茶色は茶色の風情をたのしみたい。

▶グリーンカーテンのすすめ

どこを取っても「いいことづくめ」のヘチマ。これほど有用な植物なのに、あまり育てる人がいないのは「もったいない」の一言。みんなゴーヤは育てているのに・・・。

ゴーヤももちろんいいですが(わりに好物です)、1週間に3本も4本も食べられるものではありません。消費しきれずに赤く腐っていくゴーヤ、毎年見かけますよね。

いっそ、グリーンカーテンをヘチマにしてしまえば、向こう数年分のスポンジが自給できます(おそらくは親族・友人・ご近所の分まで!)。市役所がヘチマのグリーンカーテンを作って、市民にヘチマスポンジの無料配布をしてくれたら―――よくある「ゴーヤの無料お持ち帰り」よりも、よほど真のエコにつながるのだがなぁと夢想してしまいます。

植えて、使って、土に還せる。栽培も自然放置。スポンジへの加工も自然放置。グリーンカーテンで自然な遮熱効果も得られる。ゼロウェイストを絵に描いたような植物、ヘチマ。ヘチマスポンジは、やはり「現代の奇跡」のように思えてなりません。