エコ志向のわが家が巨大な冷蔵庫を買ったワケ① ~ 「脱・冷蔵庫」という魅惑の地平

昨秋、わが家は冷蔵庫を買い替えました。しかも、「単なる買い替え」ではありません。これまで「なるべく冷蔵庫に頼らない生活」を夢見て、5人家族なのに単身者用の150ℓの小型冷蔵庫(=それもリサイクルショップで買った中古品)でやりくりしてきたのに、何とその3倍以上、実に500ℓを超える超大型冷蔵庫(しかも新品!)に買い替えたのです。

わが家には、炊飯器も、電子レンジも、テレビも、掃除機も、保温ポットも、トースターもありません。エアコンは一応ありますが、一般的な家庭に比べれば、依存度はかなり低いです。もちろん、冷蔵庫と洗濯機は使っているし、扇風機は4台もあるし、バイタミックスがあったり、パソコンも2台あったり、 家で映画会をするためのプロジェクターがあったり、最近は電動餅つき機での週末餅つきに興じていたり・・・というわけで、自慢できるほど家電が少ないわけでもないのですが、それでもまあ標準と比べれば、少ない方だと思います。

そんなわが家にとって、電気料金の圧倒的大部分を占めるのが冷蔵庫。「冷蔵庫さえ何とかできればなぁ・・・」―― そう思って過ごしてきたので、もちろん今回の買い替えも「何となく」巨大冷蔵庫に手を伸ばしたわけではありません。「ついに屈して…」ということでもありません。猛然とリサーチし、「今の生活にはこれがベスト!」という結論に至った長い道のりを2回シリーズでまとめてみたいと思います。


▶命題①「そもそも冷蔵庫は必要なのか?」

さて、冷蔵庫。もちろん、普通に考えたら必要です。でも、冷静に考えてみれば、冷蔵庫を持たない暮らしをしている人は世界にはたくさんいます。たとえば南インドでは、冷蔵庫や洗濯機はまだまだお金に余裕のある中流以上の家庭の持ち物でした。冷蔵庫を持たない人たちは、その日の料理はその日のうちに食べ切り、牛乳は朝いちばんに配達されたものをその日のうちに飲み切る。野菜は野菜売りのおじさんが毎日手押し車で売りに来て、新鮮なものを買っていました。冷蔵庫がなくても、上手にやりくりしている様子を目の当たりにして、「何て軽やかなんだろ~」「冷蔵庫がなければ、狭い台所でも狭さを感じないな…」など新鮮な驚きを覚えたものです。

南インドにいた頃、毎朝来ていた野菜売りのおじさん。「野菜~!」というかけ声が聞こえてくると、うちの子たちは大興奮で外に飛び出していました。

翻って自分は、生まれてこの方、家電が当たり前の人生。初めて実家を出たときも、何の疑いもなく、「最低限の家電一式」(=冷蔵庫+洗濯機+炊飯器+電子レンジ+掃除機+トースター)を買い揃えました(この時点で、お金をけちってテレビは卒業)。家電だけで15万円近くしたでしょうか。敷金礼金に加えてのこの出費。まだ給料も少ないのに、しかも質素な2Kの木造アパートに住むだけなのに、「自立ってお金がかかるんだな…」としょんぼりしたのを覚えています(たくましいインド人が聞いたら笑うでしょうね)。

その後、 「ご飯は鍋でも炊けるな…」「掃除はほうきでもいいかな…」「パンは焼き網で焼けるな…」「蒸篭で蒸せば電子レンジは要らないな…」という具合に、徐々に家電への依存は減っていったのですが、冷蔵庫と洗濯機だけは別格。一応、インドでは冷蔵庫と洗濯機にほとんど頼らない ― というか頼りたくても頼れない ― 生活を経験し(その懐かしき日々はこちら)、「意外に行けるかも!?」という感触も持ったのですが、いざ日本に戻ってきてしまうと、なぜかそういう感じではなくなるんですよね…。あれはやっぱり、すべてが思い通りにならないインドというある種の「非常事態」に身を置いていたからこそ、そういう気分になれただけだったような……。


▶日本にもいる! 冷蔵庫を持たない人たち

でももちろん、最終的には「持たない」を超えるエコはありません。そして、日本にもちゃんと、そんな理想形を体現している方はいます。まず思い浮かぶのは、『電気代500円。贅沢な毎日』のアズマカナコさん。東京の住宅地で親子4人、冷蔵庫も洗濯機も持たない豊かな日々を過ごされています。

「電気代500円」ってかっこよすぎます。冷蔵庫を持っていたら、絶対に達成できません。

アズマさんは、「干す」「漬ける」「発酵させる」など、昔ながらの知恵を駆使して、食材を常温で保存しています。また、冷蔵保存が必要な肉を毎日食べたりせず、畑で野菜を育て、ウコッケイやウズラを飼って毎日新鮮な卵を食べ、とても健康的な食生活をされています。「ある食材で料理をする」というその自然体の暮らしには、無理している様子はまったくありません。そこに感じられるのは、ただシンプルに調和の取れた、安定的な暮らしです。

改めてわが冷蔵庫の中身を眺めてみると、たとえば味噌や醤油、卵、漬物など、「絶対に冷蔵庫に入れないといけないわけでもないもの」をたくさん詰め込んでいることに気づかされます。また、生パスタやハム、ビール、ワインなど、「絶対に食べないと日々の食生活に支障をきたすわけではないもの」もたくさん詰め込んでいます。これらをもし無理なくシフトしていけたら ― つまり食生活全体を見直していくということになりますが ― 「脱・冷蔵庫」は必ずしも天文学的に遠い領野ではなくなってきそうです。

実際、 ネットで調べてみると、 昨今のミニマリストブームも相まってか、「冷蔵庫を持たずに生活している人」がゾロゾロ出てきます。この方の「食材別ノウハウ」を見ると、「冷蔵庫がなくても、こんなにたくさん食べられるものはあるんだなぁ」と実感させられますし、この方は「冷蔵庫を持たないと超健康的な食生活になる」とおっしゃっています。この方は、冷蔵庫の電源を抜いて、「ただの箱」として活用しています。この方も「慣れと割り切りで道が開ける」とおっしゃっています。目からウロコの連続。「冷蔵庫なしじゃ無理!」という固定観念の霧が晴れ、晴天がパーっと広がるような爽快感です。

読んでいると、どの方も、単に「エコ」という以上のメリットを「冷蔵庫のない生活」に感じられているようです(と言うか、単に「エコ」のために脱・冷蔵庫をしている方はほとんど見当たりません)。たとえば・・・

あとはみなさん、「常識に囚われずに自由な生き方を選んでいる」という気持ちの充実度も高いように見受けられます。こういう境地に至ることができれば、「脱・冷蔵庫」はもはや苦行でも我慢でもない、しごく現実的な選択肢に見えてきます。

ただ、もちろん、課題はあります。「いいな」と思いつつもわが家が現時点で踏み切れない主な理由は・・・(列挙するまでもないかもしれませんが)

また、わが家は今、小規模ながらカフェも営んでいて、食材を状態よく保存することが不可欠なので(そもそも冷蔵庫がないと営業許可が取れません、たぶん)、現時点では、やはり残念ながら「脱・冷蔵庫」を現実的に思い描くことはできません。となれば、もっと別なやり方を考えてみなくては・・・。


▶命題②「電気冷蔵庫だけが冷蔵庫なのか?」

「冷蔵庫」って、つまりは「冷やす箱」という意味です。冷やせれば、必ずしも「電気冷蔵庫」である必要はなし。急速に多様化する現代、「探せばきっと、電気冷蔵庫以外の冷蔵庫があるのでは…!?」ということで、いろいろ可能性を探ってみました。

★非電化工房の「非電化冷蔵庫」

名著『月3万円ビジネス』や『愉しい非電化』などの著書で知られる発明家、藤村靖之さん。その名もズバリ「非電化冷蔵庫」を考案されています。藤村さんの魅力は、「電気の意義の否定」ではなく、「電気を使うのが当たり前になっていることを、電気を使わずに楽しくやってみる」というそのあり方。拠点とされている那須の非電化工房は、奇想天外な非電化の発明品が並び、実際に使われていたりして、まさにワンダーランド。数年前に一度見学に行き、本当にたのしい体験でした(非電化工房のコーヒー焙煎器を使ったわが家のコーヒーライフはこちら)。

この「非電化冷蔵庫」、輻射熱だか放射冷却だかの仕組みを利用して(=物理が苦手なので、いい加減ですみません)、庫内の温度を低く保てるというもの。「直射日光の当たらない夜空のよく見える場所に置く」「空が澄み、星が見える」などの条件が揃えば、真夏の昼でも庫内の温度を7~8℃くらいに保てるそうです。これはすごい! 「絶対使ってみたい!」と思ったのですが、残念ながら市販はされていないのです。モンゴルなど空気の澄んだ土地ではかなりの効果が期待できるようなのですが、日本だと必ずしも・・・といった辺りが商品化されない理由かもしれません。

ただ、仕組みはばっちり公開されているので、DIYで自作している方はいます。中でも、この方のレポートは詳しくて参考になります。そもそも大工仕事が苦手な自分。「もし、ものすごく簡単に作れそうなら、やってみたいな…」と思ったのですが、う~ん、そこまで簡単ではなさそう。しかもベニヤ板を買って、発泡スチロールを買って・・・と、なかなかこの辺がジレンマですね。。。(→これ、もし失敗したら、大量のごみが…!) 完全な理想形というものはなかなかないので、「あとは使い勝手さえよければ」というところなのですが、この方の検証によると、なかなか期待通りにはいかなかったりもするようです。となると、現時点ではやはり、この「トライ・アンド・エラー」のプロセス自体を楽しめる実験好きな方でないと、なかなか実用には向かないのかな~というのが今のところの印象です。

★オランダ発の地下型ゼロエネルギー冷蔵庫「groundfridge」

お次はこちら。さすがヨーロッパ!! デザインが抜群におしゃれです。温度変化の少ない地中に埋めることで、年間通して温度が10~15℃に保てるというアイディア。なるほど、賢い! たしかに普通の冷蔵庫ほど冷たくはなりませんが、野菜や果物、粉や穀類の保管や、瓶詰めなどの長期保存には効果バッチリのはず。僕はかねてより、「冷蔵庫って、あんなに温度が低い必要があるのだろうか?」と疑問に思っていました。そういう意味では、このgroundfridge、最高です。何しろ見た目がよくて、こんなのが庭にあったら、毎日の暮らしがヴァカンスのようにたのしくなりそう。「まずはとにかく買って使ってみよう!」と思ったら・・・・・・

・・・何と値段は150万円……。それ、本当に「毎日の暮らしがヴァカンス」のお金持ちにしか買えない値段です。機能的には実用レベルでも、値段が全然実用レベルではない。残念無念。手頃な類似品の登場を望みます!!!

★日本の伝統「土の穴」

このオランダのスタイリッシュな地下型冷蔵庫は、とてつもなくインスピレーショナルですが、実は「地中で保存する」というアイディアは何ら新しいものではありません。日本の農家さんや、昔ながらの家を知っている方々はきっと思い当たりますよね? そう、いわゆる「芋ぐら」や「生姜つぼ」です。

たとえばこんなふうに、縁側のすぐ下に穴をつくり、作物を長期保存します。もはや活用されていない穴も多く見られます。

場所は、縁側の下だったり、床下だったり、あるいは防空壕のような洞穴だったり、と様々ですが、要は「土の穴」。地中は温度が安定しているので、さつまいもや生姜など大量の作物を長期保存できるという知恵です。電気冷蔵庫のようにキンキンに冷えなくても、日本の夏の高温多湿から食材たちを守れるという意味では、冷蔵庫の役割のかなりの部分を肩代わりしてくれそうです。

「これ絶対欲しい!」と叫ぶのは、わが家の畑担当、妻の麻子さん。「これさえあれば、私の育てたお芋や玉ねぎが夏越しできるし、大きな電気冷蔵庫なんて必要なくなる!」と。ただ、これ、一体どうやって作れば…? 大工さんに聞いても、今さら作っている人はどこにもいないようだし、そもそもこれ、昔はどこの家でも一家の主が自ら掘っていたという話も。(→え、つまり僕が掘るってこと!?) まぁ、構造としては単純なので、重機が使える友人知人にお願いすれば作れそうな気もしますが、でも、何の心得もない素人が作って、地震で崩れ落ちて生き埋めになるとか……洒落にならん……と不安は募ります。

あとは、使い勝手がもう少しよさそうなら・・・というところも少し気になります。穴の構造上、作物の出し入れが毎回「よっこらしょ」のイメージです。それに「カビ臭くならないの?」とか…。せっかくの伝統の知恵なのに、こうして敬遠されて、廃れていってしまうんですね。本当に寂しい現実です。こう考えると、オランダの地下冷蔵庫は、例えて言うなら「ユニットバス」のようなもの。すっぽりはめ込んで安心安全を演出するという、まことに現代的な販売戦略だったわけです。


▶電気冷蔵庫がまばゆく見える

世にもたのしいオルタナティブ冷蔵庫の世界をしばらく周遊していましたが、どれもアイディアとしてはたのしくても、いざ「わが家の電気冷蔵庫の代替になるのはどれか?」という段になると、現実的な候補は一向に現れません。

ついに、「やっぱり電気冷蔵庫なのかな…」と思い始めた自分。(遅すぎです。本当に面倒くさい性格!) 電気冷蔵庫のすごさやありがたさがひしひしと感じられます。これだけ多くの人が電気冷蔵庫を使い続けているのも訳がわかるというものです(最初からわかっていたという話もありますが…)。

でも、せっかく「暮らしをより良く変えてみよう!」と思っているのに、「結局何もできずにヤ〇ダ電機でたまたま店頭に並んでいたセール品のツルピカ電気冷蔵庫を買う」って、あんまり心が躍りません。冷蔵庫、結構高いのに…。

高いお金を出すからには、やっぱり納得できる買い物がしたいのです。たとえば、「デザインが超絶美しい」とか。「自然素材を組み入れていて、触り心地がいい」とか。「木製のアンティーク風の冷蔵庫とか、どこかに売ってないかなぁ…」 などと、この期に及んでグズグズ考えあぐねていたら・・・1冊の本と出会ったのです ―― 電化製品への見方を一変させてくれる本に。

こうして、わが「冷蔵庫をめぐる旅」は次なるステージに向かうことになりました。(後編につづく)